「知られざる名将 真田信之」 MYST歴史部 著

相川司氏が監修しているが、この本はあまり面白くない本だった。真田信之とは真田信繁(幸村)の兄で、江戸期に大名として続いた信州松代藩の藩祖になった人物である。93歳まで生きた人物でもある。確かに名将なのだが、この本では、そのことが浮かび上がってこない。

父の真田昌幸の戦いの中で、「この戦いでも信幸(後に信之と改名)は、このように勇敢に戦いました」的なことが入るだけであり、印象に残らない。そして、このエピソードも『校注加沢記』と言う沼田真田藩の家臣の加沢平次左衛門が記した史料に基づいているもので、あまり信頼性はないようだ。ウソならば、藩祖を飾る為に、もう少し華々しいエピソードがあれば面白いのだが、そこまでは派手ではない。そういう意味でも面白さが少ない。

文庫で244頁あるが、肝心の信之が主役になって記されているのは江戸期の藩政になってからのことだ。すなわち第5章の30頁前後である。だから、他の箇所は相川氏がこれまで書いた「真田信繁 戦国乱世の終焉」(http://mirakudokuraku.at.webry.info/201511/article_1.html)と同様である。
第5章で面白かったのは、小野お通なる京都にいる女性との交流が紹介されていることである。「戦国随一の才女」と紹介されているが、私ははじめて知る人物である。読者が知っているような感じで書いているが、ほとんどの人は知らないのではなかろうか。それならば、もう少し加筆して欲しい。

他の部分は、父:昌幸の活躍の中での脇役として、信之のエピソードが『上田軍記』、『加沢記』、『名将言行録』などから散発的に入るだけの本である。文章は読み難くはないが、雑誌の編集部が書いた為か、作者としての熱い部分が無い。「知られざる名将」を世に出したいのですというような気合いがなく、印象に残らない。やはり本は作者の思いが入らないといけない。結局、来年の大河ドラマの便乗企画で出版したような本なのだ。

信之は、妻に本多忠勝の娘をもらっていて、関ヶ原の時にも徳川家に忠誠を尽くしていたから、江戸時代の大名家として存続できたわけだが、父の真田昌幸は家康、秀忠を戦で何度か苦しめた人物であり、徳川方の将兵はそれらの戦いで多く死んでいる。弟の信繁(幸村)も大坂の陣での活躍でもわかるように、徳川から見れば憎い相手である。加えて、昌幸、信繁(幸村)が高野山に蟄居の時に援助もしていたとされる。こんなことも当時は徳川家に筒抜けだと思う。

このような状況の中で、徳川期に大名として生き残るには、信之に相当の器量が必要だと思う。それが、この本には書かれていない。もちろん史料が無いのかもしれないが。


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