「司馬遼太郎全集13 俄 浪華遊侠伝」 司馬遼太郎 著

 幕末~明治にかけて大坂で活躍した明石屋万吉の物語である。面白い小説である。明石屋万吉の父は幕府隠密の明井采女である。十一代将軍家斉の内命を受けて、大坂の高級幕吏の身辺を探っていたが、家斉が死去した為に復命の機会を失って浪人したという設定である。北野村の百姓の娘を妻として、明石屋儀左衛門の養子となり、名も九兵衛と改める。万吉はその長男である。そのうち、父親は養家を追い出され、一家は乞食同然の身となり、万吉は商家に奉公に出される。そこに父親が逐電したとの連絡が入り、母を食べさせる為に何も考えずに商家を出る。
 仕事も、食べるあても無い中で、違法な賭場を開いているところに飛び込んで、そこにある金を取ることを思いつく。当然に殴られ、半殺しにあうが、それを覚悟で実行する。殴られても一切抵抗せずに、金を奪う。その内、違法な賭場を開いている人間は万吉が来ると嫌になり、「もう来るな」で銭を渡して済ますようになる。万吉は、そこで得た金を母の家に投げ込む。母は当初は誰が金を投げ込むかもわからず、その内、万吉だとわかると泥棒をした金と思い、使わずに保管しておく。
この後、万吉は孝行の鏡としてお上から表彰されるようなこともある。

こんな命を粗末にする稼業をしている中で、存在感を増していく。頼まれたら、仕事の内容を聞かずに受けるか、受けないかを決め、受けると決めたら命を捨てるつもりで取り組むのが男稼業である。
色々な頼まれ仕事の記述が面白い。大坂の米問屋に頼まれて、江戸からの買いで高騰続ける米相場を潰すような乱闘も行う。役人は江戸の業者とグルであり、出頭した万吉は牢内で物凄い拷問を受ける。石抱きや海老攻めなど普通の人では耐えられない責め苦を受ける。それでも依頼主の大坂の米問屋の名前を出さず、役人も感心し、依頼の米問屋から毎年の礼米を受ける。
またある時は、大坂に赴任した幕府の高級役人から、身分の高い幕府の隠密が行方不明になり、恐らく探っていた奉行所与力などに謀られて牢内にいるのではないかとの推測の上、万吉が牢に入ることで助けることを頼まれて首尾良く救い出す。後にこの時の隠密が大坂町奉行に赴任して粛清を行う。

このようにして得た礼(米や金銭)も私腹を肥やすことなく、頼られる人間にばらまき、益々人望を高めていく。幕末の大坂も治安が悪くなり、一柳家一万石という小大名が大坂の川の警備を頼まれ、それを万吉を上士(足軽頭で十人扶持)に取り立てて警備してもらうことになる。この為の費用も万吉持ちであり、番所を賭場にして費用を稼ぐ。武士だから姓名を名乗る必要があり、本姓の明井ではなく、小林佐兵衛と名乗る。
禁門の変後に負けた長州人の取締が厳しくなるが、万吉は川の番所で長州侍を助ける。勤皇も佐幕も無く、大坂の町を守る(往来安全)というスタンスである。桂小五郎も見逃したことにしている。この時、助けた長州人が明治になって、万吉の力になってくれる。万吉の力になると言っても、明治の新政府も万吉の動員力や人望、資金力を頼りにするわけである。

 長州人を助けていることを幕府の役人は知り、万吉を亡き者にしようと画策し、一柳藩の大坂留守居役と謀って新撰組に万吉を斬らすようなことを実施する。この気の弱い大坂留守居役が万吉に藩に代わっての警備を依頼した人物である。武士の情けなさも司馬遼太郎は書いていく。
 鳥羽伏見の戦いでは一柳藩が幕府方につくとのことで、万吉こと小林佐兵衛も戦いに参加し、部下を失う。万吉は後悔すると同時に、この過程で幕府の侍のどうしようもなさを知る。
 万吉は身分性社会の中での幕府、侍の腐敗を知る。同時に万吉が牢に入って助けたような隠密のような侍もいることを万吉は感銘する。

 維新後、処刑されかかるが、万吉が助けた長州侍に刑場で出会い助かる。万吉は賭場の運営から手を引き、困窮するが、昔、助けた者が米相場に導き、万吉は巨利を得る。堺で土佐藩士がフランス軍人を殺し、土佐藩士が切腹する堺事件のことも詳しい。ここでも頼まれ仕事をする。
 禁門の変の時に幕府によって殺された長州藩士66名の霊を商売にしていた人物は、長州系の新政府要人の要請にも商売利用を止めなかったが、万吉が役人に頼まれ、別途、祀ることになる。こんな費用も万吉持ちである。また、新政府の役人によって北区の消防頭にさせられ、また旧幕府時代の「お救い所」を新政府が引き継ぎ、万吉が北区に授産場を建て、家財を使うようなハメになる。品川弥二郎から国会議員の選挙における政敵つぶし頼まれたりする。それが男稼業の明石屋万吉である。

 長寿で亡くなるが、自分の一生は俄(にわか)を演じていたようなものとの万吉の述懐がタイトルになっている。小説だから虚実取り混ぜてあり、どこまで本当かはわからないが関東の博徒とは違う、上方の博徒を描き、司馬遼太郎の傑作の一つである。

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