「明治の金勘定」山本博文 監修

 私は拙著『江戸の日本刀』で幕末の刀価を現代価格に換算したり、刀の雑誌で「刀剣販売カタログ「日本刀 現存の優品」の分析」として、戦後落ち着いてきてから現代までの刀価格を、インフレも加味して取りまとめてきたが、昔の価格を現代価格に置き換えるのは苦労する。

 明治時代も、初期の文明開化の時代から明治末年では開国や幕藩体制の崩壊によるインフレや、生活習慣の洋風化という劇的変化や、急激に進展する技術進歩があり、難しいだろうと思うが、さすがに山本先生である。わかりやすくまとめられている。

 私も苦労したが、個別の物価で現代と比較すると、その物の当時の人気、稀少度や、その後の生産・製造技術の進歩や、政府の統制などの影響を受けて、マチマチの換算率になる。地価などは交通事情の変化や、人口の増加などで大きな影響を受ける。

 そこで、当時の人の収入ベース(諸品を購入する原資=生活をする元となる)を現代の収入ベースで比較するのが、一番妥当と思う。この本では明治30年代の公務員給料を基本にして現代価格と比較している。この公務員給料は約2万4千倍になっているが、2万倍になったとするのが妥当として換算している。すなわち(1円=2万円、1銭=200円、1厘=20円)である。

 本は「序章.波乱の船出を乗り越えていく明治新政府」「1章.文明開化の新しい味覚」「2章.急激に変化した明治の生活」「3章.収入格差が激しい大変革」「4章.教育に力を注ぐ新政府」「5章.新時代で遊びも多様化」「第6章.金が絡んだ明治の事件」に別れている。

 「序章.波乱の船出を乗り越えていく明治新政府」では、幕末に欧米と日本の金銀の価格差から金が大量に流出したことを受けて、幕府は安政7年に天保小判1枚を三両一分二朱などに置き換えて万延小判を発行して、それを抑える。ただし国内ではこれまで金の4分の1の価値の銀が12分の1になったのでインフレが加速する。大坂で米価は約11倍になり社会不安を加速する。また幕末は各藩が藩札を刷ったり、贋金が生まれたりして混乱したことを記す。
 新政府は明治4年に一両=一ドル=一円にし、純金1.5グラムを一円にする。円の百分の一を「銭」、銭の十分の一を「厘」とした。明治30年に日清戦争で清国から得た賠償金2億3千万両(テール)が入って安定する。

 「1章.文明開化の新しい味覚」では当時の諸品が明治になって日本で登場した経緯を説明して、その当時の価格を記しており、食物の起源としても面白い。「2章.急激に変化した明治の生活」では鉄道、電報、自転車などの江戸時代にはなかったものの価格だ。
 例えば牛肉百グラムの明治26年の価格が3銭6厘(現代価格で約720円)で、幕末から町のごろつきや緒方洪庵の適塾の書生が食べていたが、幕末に来日した外国人は香港やアメリカから輸入し、文久2年に横浜で「伊勢熊」、慶応元年に江戸神田で三河屋が提供。新政府は肉食を奨励し、明治4年には明治天皇が牛肉を食べる。料理屋がスキヤキなど日本人の口に合うように工夫して広まることが記されている。
 郵便制度が始まるが、切手は4匁まで3銭だから、現代価格では600円だ。自転車は現代価格では約400~500万円もしたようだ。

 「3章.収入格差が激しい大変革」では、当時は身分制の名残があり、収入格差は地位によって学歴によって非常に大きかったことを説明している。総理大臣の年俸が約2億4千万円、国会議員が約4000万円、帝大出の高級官吏の初任給月給が約100万円に対し、巡査の初任給は約18万円、二等兵の給与は1.8万円。
「4章.教育に力を注ぐ新政府」は学費、楽器、書籍などを比較している。
「5章.新時代で遊びも多様化」では動物園の入園料、歌舞伎、大相撲、ホテルの料金比較だ。妾の手当などもある。
「第6章.金が絡んだ明治の事件」では井上馨の汚職などだ。