「兜率天の巡礼」司馬遼太郎著

 全集2所載の不思議な短編である。終戦後に洛西嵯峨野の上品蓮台院に訪れ、その壁画(何度も修復されているものだが)を失火で焼失せしめた大学教授の話である。もちろん小説だから事実がどれだけ含まれているのはわからない。
 この教授はポツダム政令で大学を追われたことになっている。教授はここに描かれている天女に執心していた。
 その経緯として、43歳で死んだ妻のことが記されていく。この妻の家の財力で大学教授の地位を得たのが教授である。ここに大学教授の地位が学問ではなく閨閥で得られているという司馬遼太郎の皮肉を感じる。
 それはさておき、妻は控えめな女性であり、教授が書斎に籠もっている時は隣りの部屋で一人で寝るような生活で2人に子は無かった。死因は糖尿病が悪化し、心臓麻痺を起こしたものである。しかし死の10日前から狂気を発したようになる。目がらんと光り、教授に敵意をむき出すようになる。
 医師に診せても異常はないと言うが、終戦の日に亡くなる。

 ポツダム政令で大学を追放されていたので、妻の狂気が遺伝から来ているのではないかと妻の実家の関係先を聞いてまわる。その関連で兵庫赤穂郡比奈の大避神社の宮司の話を聴く。ここで太古の秦氏の事績を聞かされる。その中で秦氏はユダヤ人の子孫のような伝説も聞かされる。関連して、景教=ネストリウス派キリスト教の話が司馬遼太郎の学識を物語るように続く。長安で唐の武宗のもとに嫁ぐ景教徒の女性の話も出てくる。

 日本に景教が伝来してから、この大避神社に至るまでの物語が続く。そこで秦川勝という秦氏の長者が山城に勢力を張り、聖徳太子の関係の話に展開していき、大酒神社、太秦の広隆寺と廻り、上品蓮台院に行き着く。ここには秦一族の誰かが絵師に描かせた古い壁画があり、その中に妻の顔もあるかもしれないと宮司は話す。

 上品蓮台院に出向いた教授は闇の中で壁画をロウソクの火を照らして、確かに妻に似た天女の顔を発見する。そしてローソクの火は壁画と教授を包む。

 当時、京都で新聞記者として宗教関係を担当していた司馬遼太郎の学識が、小説家の才能と一体となって生まれたような小説である。良い小説とは思わないが、何か記憶に残る小説である。

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