「微光のなかの宇宙-私の美術観-」 司馬遼太郎 著

司馬遼太郎全集1が忍者物の時代小説であり、少し毛色の違ったものを読もうとして、全集の65に収録されているものを選ぶ。これには「街道をゆく 十四」も収録されている。

「微光のなかの宇宙」には司馬遼太郎が美術について書いた次のエッセイが集められているが、私にはあまり面白くなかった。歯切れの悪い評論と感じる。
「裸眼で」「密教の誕生と密教美術」「わが空海」「激しさと悲しさ-八大山人の生涯と画業」「ゴッホの天才性」「微光のなかの宇宙」「八木一夫雑感」「三岸節子の芸術」「出離といえるような」である。

「裸眼で」は司馬遼太郎が新聞記者時代に美術の担当になった時に、美術をわかろうとしてセザンヌなどの理論書を紐解いた時の違和感を書いている。そして仕事で絵を観ることが無くなった時期から自分を取り戻して絵に自由に感動できるようになったと書いている。そしてゴッホの素描に文学性を感じ、それから鴨居羊子の弟の鴨居玲のこと、上村松園の絵のことなどに触れている。

「密教の誕生と密教美術」と「わが空海」は密教美術、それを日本に持ってきた空海の天才を書いている。密教は紀元5~7世紀ころに南西インドで成立する。この地はアラビア人との交易で栄えていた。釈迦の全て捨てよの教えから、富など持ったまま即身成仏ができることを願い、密教を誕生させる。密教の菩薩像は華麗で、密教は欲望も肯定されることから男女の性愛も肯定されて、それが行きすぎて変な方向になることもあると説く。
最澄が中国製の仏教の天台宗をもちかえり、空海は中国経由でのインドの密教を持ちかえる。そして思想体系を完璧に近いものにした。密教美術は思想表現である以上、造仏には取り決めがある。決まりが煩瑣な面もあるとして不動明王、観世音菩薩のことなどを説明し、滋賀の向源寺(渡岸寺)の十一面観音、河内の観心寺の如意輪観音、高尾の神護寺の虚空蔵菩薩などを紹介する。
なお空海は母方の叔父にあたる阿刀大足が学者として一流であり、彼に学び、唐にわたる前に学識を蓄えていたとする。加えて修験道の修業もした。その結果、唐で中国人にも一目を置かれる学識を発揮し、恵果から密教の正統者と認められる。まさに天才と評している。

「激しさと悲しさ-八大山人の生涯と画業」とは明の八大山人の生涯や、特に生命感に溢れる絵に感銘を受けたことを記している。彼は明の王族ではあるが江西省に住し、清によって亡びる時を経験した人物である。

「ゴッホの天才性」ではゴッホのことを記している。ゴッホは牧師の家に生まれ、生涯、独特の愛他主義をい持っていたが、世間と徹底的に調和できなかった。それが自分の内部にもぐらせることになり、絵を画くしかなくなるとして、ゴッホの人生を辿っている。画業は27歳から37歳の間に過ぎない。

「微光のなかの宇宙」は須田国太郎の画業を紹介している。西洋の油絵ではなく、水蒸気を含んだ日本的な色で描くと評している。作者は西洋の模倣を批判しているから、須田国太郎の画業を評価している。なお須田国太郎は学者で、背広もきちんときた老紳士である。京都の長浜縮緬の問屋の家に生まれ、少年時代に謡曲もならう。三高でドイツ語を学び、京大では哲学科を選ぶ。美術学校に学ばず、大学時代に関西美術院でデッサンを習う。大学院で絵画の理論と技巧を研究。スペインのプラド美術館でバロック絵画を学ぶ。京大文学部講師でギリシャ彫塑史概説を講義していた。

「八木一夫雑感」は陶芸家で司馬遼太郎の5歳上の八木を書く。美術記者時代に知り合う。彼の作陶は思想と感情をかたまりにして空間にぶら下げたようなもので、陶芸の「用」を外しているし、茶の美学などにも逆らっていると評している。だから売れずに貧乏する。父も陶芸家で窯は五条坂にあった。

「三岸節子の芸術」では愛知県尾西市の地主の家に生まれ、女子美に入り、三岸好太郎と結婚する三岸節子のことを記す。公太郎との結婚生活は9年間ほどで、彼は31歳で夭折する。その後、彼女は昭和29年の49歳の時に渡欧する。日本の水蒸気の多い気候に対して欧州の乾いた色彩の鮮やかな気候を体験する。

「出離といえるような」は『街道をゆく』で一緒に旅をして挿絵を描いた須田剋太のことである。武蔵の吹上で教育者の息子として生まれ、芸大を4度落ちる。浦和で下宿し、絵ばかり書く生活を送る。ただ官展に入選していた。妙義山で山籠もりをし、40を越えていた昭和19年に京都、大和に行く。絵画では通算3度、官展の特選にはいる。奈良では東大寺の上司海雲と親しくなり、新薬師寺の一角に住む。結婚して西宮に住む。抽象画の長谷川三郎に出会い抽象画を志向する。道元の思想を体現するようになる。『街道をゆく』の挿絵をお願いしたのは橋本関雪の息子の橋本申一が推薦した為とのこと。この時64歳だが、司馬遼太郎は書生のようだとの印象を持つ。

(全集ではなく文庫本を紹介)

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