「いちまき」 中野翠 著

「いちまき」とは同一の血族集団という意味だそうであり、この書は著者の曾祖母にあたる中野みわ氏が遺した『大夢 中野みわ自叙伝』という和紙に筆書きの書物と出会ったことから著者が自分の一族のことを調べていった本である。
中野みや氏は安政6年に生まれ、その実家は関宿藩久世家の江戸家老を務めていた木村家である。父の木村正右衛門正則は佐倉藩の岩瀧家から養子に入った人物である。
幕末の関宿藩も他の多くの藩と同様に、佐幕派と勤皇派に分かれ、抗争していた。木村正則は佐幕派の頭目の一人として、彰義隊の戦いにも参戦して、敗走する。その過程で、実家の佐倉藩岩瀧家の係累を頼ったりして、最期には静岡の沼津兵学校で教えるようになる。この頃は山田大夢と改名して平民となり、息子には幕臣黒川家の身分を買うようなことをしている。
維新の時の敗軍の物語は、会津でも幕府でも尾張でも各藩にあるが、関宿藩にもあったわけである。歴史はどうしても勝者の歴史だから敗軍の佐幕派は守旧派・反動勢力として、良くは語られていない。

曾祖母の自叙伝の中味はあまり紹介されておらずに物足りない。関宿藩の桜田門外の屋敷で生まれたとあったのを、著者が桜田門内に久世家の屋敷があった古地図にめぐりあったり、逃走の過程で隠れ住んだ場所の近くに著者が暮らしたことがあったりなどの因縁話を絡めながら筆を進めていく。
いちまきの祖先が暮らした土地を著者が尋ねることが後日談として8つ装入されている。

佐倉藩の岩瀧家の親戚に洋画家浅井忠がおり、筆は浅井忠のことに飛んだり、その知人の依田学海のことを記述したりする。それぞれに興味深い。依田学海は私が本を書いた時に土方歳三が刀の件で依田学海に述懐した言葉を引用しており、馴染みがあった。

私などは幕末当時に生きていれば、佐幕派に属しそうであり、こういう人の苦労話は身につまされる。また明治維新とは不思議な革命だったと思う。

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