「所蔵品選集 鐔」 (公)黒川古文化研究所

黒川古文化研究所が所蔵する鐔を所載したもので、研究員の川見典久氏と杉本欣久氏が解説を書き、新たに蛍光X線分析を加えている。
川見氏は従前から伝わる刀装具の伝承を、新たな視点から見直そうとされている研究員であり、私は期待している。このカタログでも、従来の鐔の流派区分の「尾張」「京透かし」などの言葉や時代区分に対して懐疑的な姿勢で対処している。

鐔は同館所蔵の中から40枚を掲載している。鉄鐔の信家、又七から色金鐔、金工鐔まで様々である。
作品の解説に当たって、制作の精神や時代性を読み取ることに主眼を置いたとある。また蛍光X線分析で金属の組成を調査している。
ただちにこれで流派や時代がわかるものではないが、鉄鐔なら主たる金属の鉄以外の、銅、亜鉛、スズ、鉛などの組成比率の違いを、多くの作品を分析すれば、共通性、異質性がわかる可能性に触れていた。今後に期待したい。

また図案や下絵では当時の絵画との結びつき強いとある。横谷宗珉は英一蝶の機知に富む画題、長常は円山応挙の対象を合理的に把握する姿勢を受け継ぎ、埋忠や正阿弥は琳派の影響、長州鐔は山水図は雲谷派の影響を指摘している。

写真は関西学院大学博物館開設準備室の深井純氏とある。拡大画像の中に、画像を入れるような斬新な写真で賛否はあると思うが、新しいスタイルで面白い。拡大する写真で、細かい彫りを見せ、普通のスタイルの写真で全体の形などがわかる。ただ茎孔や透かしの影などは処理していないのが気になる。

信家は純度の高い鉄、金家の鉄は鉛の含有が高め、法安兼信は純度が高い鉄でスズの含有が低い。正阿弥政徳は銅の含有が若干多いが純度の高い鉄、又七の霞桜は微量ながら鉛をやや多めに含んでいると分析している。そしてこの鐔は又七自身かどうかは研究の余地があるとしている。このような疑義も率直に書いていてなるほどと思う。
又七の四方蕨手に桜文透かしは又七の字が少したどたどしいと書いている。また地鉄は上記に似ているが、鉛は少し少ないと分析結果を報告している。

彦三も純度の高い銅だが、保存状態がいいから数世代下がる可能性を指摘している。また覆輪の凹部に何度か塗布された跡があると指摘している。

赤坂忠時は亜鉛の含有が一番高かった鉄のようだ。八道友勝は純度が赤い鉄だが、銅が幾分多い。同じ長州鐔の幸正とは含有が異なるそうだ。

重文の安親の豊干禅師も「禅師の顔にみる写実性や背景の形式化した表現はむしろ時代の下がる要素とも考えられ、絵画史との影響関係も視野に入れた様式の検討が必要な段階にきている。用いられている赤銅が通常よりも金の含有率の高い、奈良派としては高品質なものであることも注意が必要であろう」と書いている。

一乗は金属の質が高いそうだ。

杉本氏が蛍光X線分析についてのべているが、機器は日進月歩で進歩しており、この結果を過度に尊重することの危うさもあるのだろう。また鉄については重要な要素の炭素までは把握できない欠点があるそうだ。

今後の研究の進展に期待したい。

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