「奇想の系譜」辻惟雄 著

この本は1970年に出版されたものだが、現在は文庫にも収録されているように名著である。文庫の解説者の服部幸雄氏によれば、当時は江戸時代の絵画と言えば、浮世絵は別にして、狩野派と土佐派の絵師の他は、池大雅、蕪村の文人画や、宗達、光琳の琳派、それに応挙、竹田、崋山くらいしか大きくは取り上げられていなかったそうだ。

この本の以前では『近世絵画史』(藤岡作太郎著、明治36年刊)が流派の縦軸を取り集めただけではなく、横軸として寛永(狩野全盛)、元禄・享保(横流下行)、宝暦~寛政(旧風革新)、寛政以後(諸流角逐)を記述していたとのことだ。

そういう時に著者は岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曾我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳を取り上げ、それを奇想の系譜とした。
この後、これら画家が再評価されて展覧会も増え、研究も進んでいった。確かに、岩佐又兵衛と松平忠直との関係や、山雪が晩年に獄に入った理由なども解明され、若冲も青物問屋の本来業務においても、それなりの仕事をしていたことがわかってきている。
これらの業績は、この著作に端を発しているわけである。

奇想の絵とは、意表をつかれる驚きを持つ絵で、従来の因習を破って、自由で斬新となる。言い換えると現代的な美術の尺度では高く評価されるものだ。

他に奇想の系譜に連なる画家としては北斎、絵金、暁斎などがいるのだろうし、知られていない画家もまだいることも考えられる。

岩佐又兵衛については、「山中常磐」という絵巻物のどぎつさや生々しさ、風俗画につながる卑俗さを紹介し、それが見つかった経緯も説明している。他に「堀江物語」「上瑠璃」「をぐり」などを紹介し「一種の名状し難い気うとさ、鈍重なもの凄さ」と評した田中喜作氏の言にも賛意を表している。荒木村重の子という出自、注文した松平忠直の境遇なども説明している。

狩野山雪は狩野山楽の養子である。山楽は永徳の弟子で、その遺風を最もよく受け継いだ画家である。徳川の世になって狩野派は永徳晩年の怪々奇々の表現をあきらめ、より整った優美な装飾形式を追求する方向に移りつつあった。山雪は藤原惺窩や林羅山らの儒学者グループと交流があった。そして晩年に獄に入る経験をもつ。この時点では理由はわからなかったが、現在でも判明している。著者は、無実にしても、このような目に遭いかねない山雪の偏狭な一面があったと、画風から推測している。奇矯な表現、自然ではなく意図的に抽象化された木々などである。そして、春ののどかさなどの表現にはむいていないが、月光、夜、雪などの雰囲気には適性があると書く。

伊藤若冲は、狩野派の手法をいくら勉強しても狩野派の枠を超えられないとして、宋元画を模倣したが、これも宋元画にかなわない。そこで自分が直接物にあたって描くことが大事と知る。そして鶏などを画く。同じ写実でも応挙より17年年上であり、こちらの方が先輩である。応挙は動植物の圖鑑の挿図画家のように形状の精密なコピーだが、若冲のはユーモアとグロテスクのカクテルされた不思議な表情がある。物に即しての観察写生は、彼の固有の内的ヴィジョンを触発させるための手段であって、形似に務めず写意を貴んだとする。「画を画いたもので、物を画いたものはない」という若冲の言葉があるようだ。

曾我蕭白は、形態も変だし、色もけばけばしい赤と青と黄の原色の、まことにすさまじい不協和音をつくりだしている。西王母の顔を白痴的に画いたりする。有名な言葉「画を望まば我に乞うべし、絵図を求めんとならば円山主水よかるべし」は応挙の写生主義に含まれる無内容な側面を鋭く指摘と同時に、嫉妬心もあったと著者は推測する。なお池大雅とは気が合ったようである。批評家の中には「美人を画く時に、なるべく艶めかしく艶っぽく描くが、彼は胆力がある。応挙などの絵は画妖にして、女郎の口説きのように、甘ったるいだけで実が無い」と評する人もいた。

長沢蘆雪は応挙の弟子だが、応挙の代わりに出向いた紀州の無量寺などの寺に画いた襖絵や屏風がいい。下級武士の出だが、多趣味多芸の持ち主。皆川淇園主催の新書画展観において競って新奇を出す。応挙のいくぶん気取った古典主義的作風をより身近な庶民的世界に移し替えた画家である。動物たちの生き生きした姿態は名手。メトロポリタン美術館の海浜奇勝図はグロテスクな岩で抽象的な絵になっている。

歌川国芳は、清長、歌麿、写楽の活躍した天明・寛政年間を浮世絵の黄金時代として、以降は北斎、廣重の風景画をのぞいて頽廃、衰退とするのが従来の考え方だが、この見方は時代遅れとする。
国芳は、風景画にも幻想的資質がでており、「東都首尾の松」とか、「東都名所浅草今戸」などは魅力的と解説する。
三枚続きの武者絵にクローズアップ効果を出して、型破りな構図をつくりだす。また西洋画のアンチンボルトのように人を合成して顔にするような絵も画く。漫画の原点のような壁書きも書く。風刺画家でもある。

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