信濃路の旅① 片倉館 千人風呂

上諏訪温泉に片倉工業が建設した片倉館と併設する千人風呂がある。ここのことを第一に記しておく。

これは製糸業を興した岡谷市の片倉兼太郎が財を成した大正の末年にヨーロッパ、北米などに視察旅行をした時に、チェコの小さな村に立派な公衆温泉施設があることに感銘を受けて建設したものだ。
製糸業に携わる女工さんや、地域の人の為にと、巨額な私財(80万円、現在の価値で数十億円。当時、大きな工場を3つくらい建設できる金額)を投じて造った施設で、昭和3年に竣工している。現在、国の重要文化財に指定されている。

富岡製糸場は有名だが、あそこを、普通の経営陣のように不採算資産の整理などの名目で、毀して更地にするようなことをせずに、毎年1億円くらいの維持費を投入して持ちこたえて、富岡市に譲渡したのが片倉工業である。偉い会社なのである。1億円の内、固定資産税も多かったようであり、国家とは何だとも思う。

千人風呂に入湯してきたが、現在でも地元の人に使われており、回数券のようなもので来場される人が多い。大理石造りで、水深が約1.1メートルくらいで、下には大きめの玉砂利が敷いてある。女工さんに立って入ってもらい、浴槽内を玉砂利を踏んで歩いてもらうことで、健康増進を図ったようだ。あまり、ゆっくりとしてもらいたくなかったから立って入るようにしたのかもしれない。

大きな浴槽の周りには洗い場は少なく、浴槽から見えない部分にある。これも、立って入湯する人に洗っている姿などをあまり見せないような工夫とも聞いた。

お湯は上諏訪温泉にある無色無臭の湯である。

そして2階に、湯浴客に無料の広い休憩場がある。映画の「テルマエ・ロマエ」の撮影でも使われたようだ。簡単な飲食を提供する売店もある。地元の人が寝転んでいた。
そしてバルコニーに出られるようになっており、そこからは諏訪湖が一望できる。有名な諏訪湖花火の時は特等席だ。当時は諏訪湖が埋め立てられておらず、湖の間近であった。そのため、松の杭を60センチ間隔に打ち込んで基礎を造っているようだ。

建物内の材木も吟味された良いものを使っている。また外装も、そんな経緯があるからヨーロッパ風の建物である。
当時の有名な建築家森山松之助(台湾総督府などの建築で有名)が設計している。

片倉館の方は、案内の方にゆっくりと説明していただいたが、2階に150畳敷(周りの廊下部も合わせると200畳を超える)の演芸場があり、天井は高く(これも2段式になっていて、舞台側の天井がより高くして、演者に開放感を与える)、シャンデリアもあり、スチーム装置が付き、窓は2重ガラスの立派なものである。

建物の外観には装飾の彫刻も多く、今では見えにくいが屋根にも模様が付いている。熊の頭部のような彫刻もある。

内装の木材も吟味してあり、1階の廊下の天井板も屋久杉のようだ。床柱は糸柾の杉、長押も6尺一枚板の桧とか聞いた。

偉い会社である。



この記事へのコメント

まあちゃん
2017年06月15日 20:35
好いお湯に当たったようですね。温泉がこの国では最高のもてなしかも。大小、人口に知られざる地元の湯が、旅先で見つかります。なんとも素朴で、しかも日本人の事ですから大体が清潔な状態に保たれています。四国の道後と言えば「坊ちゃん」でも有名な道後温泉本館が観光客に人気ですが、設備は古いし、照明は暗いし、お湯の色も濁り、そこからして不潔で、だったら其処から50メートルと離れていない町営の銭湯「椿の湯」に入ったほうがよほど賢明。3人以上なら割引もあり、お湯だっで源泉は道後温泉と全く同じです。浴槽は滑らかな石造りで、広々として、朝から地元の人々が三々五々連れ立ってきています。湯は清々と澄んでおり、決して熱くはないが、入ってしばらくすると全身に汗が噴き出し、心身爽快で、効能ぶりが自ずと実感されます。
あくまでも銭湯気分で名湯を味わう、訪ねてときに喜ばしからずや、ですね。

この記事へのトラックバック