「戦国の陣形」 乃至政彦 著

面白い本である。歴史学者が関心を持たなかった分野である。世に言うところの「鶴翼の陣」、「魚鱗の陣」は嘘で、実際は、鶴翼の陣は「横に広がれ」、魚鱗の陣は「固まれ」という程度のものと言う。

そして、戦において、飛び道具には飛び道具で応戦。それで優劣が定まる。切り込むのは、進退が窮まった時とあるが、この通りであろう。そして、雑兵のように無名のものが無名の雑兵を討ち取る意味などないと書く。これもこの通りと思うが、喧嘩状態になれば「この野郎」と襲いかかるだろう。

陣形は「動く城」と考えるのが良いが、今の陣立の図は想像のものが多い。魚鱗、車懸、鶴翼などは想像の産物である。承応二年の小笠原昨雲の『侍用集』巻二の「鶴翼の備」は敵より兵数が多い場合に、前衛に鉄砲、弓、鉄砲、槍とそれぞれ横隊で、それが先手とある。
それから陣、貝太鼓、大将、まわりに旗本勢、その横に遊撃隊、後ろに後詰めとして弓、鉄砲という陣立てである。

また、古い時代の山鹿素行の『武教全書』には別の鶴翼の備えの図があるが、通説の陣立図とは違う。

古代の律令制時代に唐との戦いを意識して軍団が生まれる。そしてこの軍団制は蝦夷との戦いで実戦に使われる。しかし蝦夷は機動力に優れた散兵で戦い、加えて地形を味方にしていたので、軍団は負ける。

後に蝦夷を破った健児(こんでい)は少数精鋭の騎馬兵である。中世は決まった陣形はない。密集隊形を苦しめる散兵戦術型の蝦夷に対抗して生まれた健児は、関東の富裕な百姓からなる騎馬兵。各騎馬兵は従者を連れて参陣。個人が武技と剛毅で戦局を決定づけている。

また信長の3段打ちだが、鉄砲ではないが、9世紀前半の『令義解』の軍団条に弩を順番に打つことが書いてある。中国の本(北宋の『武経総要』前集巻二「教弩法」)にも弩を発射する発弩人、弩を武装して備える進弩人、弩の仕掛けを行って待機する張弩人による三段階の連環射撃法が記されている。

楠木軍が籠もった赤坂城は小城、北条方の騎兵は馬を下りて堀に飛び込み、櫓下までいく。そこに正成の射手から矢が来る。そこでやられて退却。陣幕に入って甲冑を脱いで休んでいると、そこに2手に分けた楠木軍が襲い、城からも楠木軍が進撃してきて負ける。

魚鱗とは「びしりと集まれ」のこと。鶴翼は「ばっさり広がれ」とのこと。

中世の武士は私戦をもっぱらとする生き物。恩賞と安堵を求めて、総大将のところにくる。数騎の騎馬武者、一騎の騎馬武者に数人の徒歩からなる軍勢。思い思いに戦う。

長期戦になると、数を揃えて、被害を最小にするため、陣形が生まれる。

足利時代は騎兵は馬上からの太刀打ち。馬上からの弓はなくなる。騎兵は馬上戦闘だけではなく、下馬しても戦う。楯兵、弓兵、騎兵に分かれる。
少数の騎兵が来ると、弓の一斉射撃は有効ではない。騎兵1騎は歩兵の2~3人が対応できる相手ではない。
当時は「われに続け」、「われ劣らじ」の情緒的進退が中心だった。

陣形は関東の武田、上杉に最初にあらわれる。これは大名が力を持ち、自身の私兵を増員させたことで生まれる。すなわち鉄砲の伝来、足軽・雑兵の台頭、大名への権力集中という戦国の環境変化によって陣形が生まれた。
このような陣形ができると、陣形を備えて待ち受ける敵の前に出れば鉄砲にやられる。鉄砲の前では武士の武技、剛毅の優劣はない。騎馬武者が飛び出して敵を圧倒するのが難しくなる

甲陽軍鑑は史料的価値が低いものではない。軍役定書は武田、上杉、北条にしかない。陣形の嚆矢は村上義清である。村上義清は武田軍の猛攻に対抗して乾坤一擲の戦いを、天文17年(1548)に塩田原で行い、武田信玄に手傷を負わせる。
それは武辺の者で200騎の騎兵を構成する。これに徒歩の槍持ち200人をつける。内100人は長柄の槍。足軽200人のうち、150人を弓隊(矢は10本/人)とし、50人を鉄砲隊(一人玉薬を3)にする。そして、弓隊150人が矢を放つ。次ぎに鉄砲隊50人が銃撃、玉が尽きると足軽200人が抜刀して切り込む。義清も騎兵200騎と長槍隊100人で襲いかかる。
武田軍に損害を与えたが、乾坤一擲の戦いであり、後が続かず、村上義清は上杉軍を頼る。上杉軍は村上軍の陣形を採用した。

それから、この本では川中島の戦い、三方原の戦い、関が原の戦いの実際を推測している。それなりに面白い。関ヶ原の戦いでは東軍が赤坂に着いたところ、大垣城にいた西軍は先陣だけで戦うべく前進したが、霧が深く行軍が不安定になる。関ヶ原には大谷吉継と小早川秀秋が陣を敷いていた。小早川の裏切りは開戦とほぼ同時に発生。それを西軍は事前に把握して、大谷軍を助けるべく西軍は関ヶ原に向かう。西軍のうち25000人の軍勢は伊勢路から迂回して関ヶ原に向かう。西軍の移動の途中で小早川軍と東軍に挟撃されて敗北する。


まだ研究が十分でない分野だろうから、著者の今後の更なる研究の進展を期待したい。

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