「光る壁画」 吉村昭 著

吉村昭の小説はいい。これは胃カメラを開発した技術者たちの物語である。主人公は仮名にして、箱根の旅館の息子と設定している。そして妻が旅館に残って、母亡き後の旅館を守っていく。もちろん主人公は東京での仕事であり、旅館に帰れない。その夫婦生活を下地にして、胃カメラの開発物語が進んでいく。

導入部は旅館で自殺未遂の話から始まる。自殺や心中しそうな泊まり客を見抜き、断ることも旅館の女将のノウハウというような話で、驚く。

本題の胃カメラ開発は、戦後、東大の病院に勤めていた宇治達郎氏が、胃の中を見たいとの動機から、その開発を持ちかける。オリンパスに勤めていた主人公は、戦時中は戦闘機の十三ミリ機銃をプロペラの回転の隙間から発射する仕組みを作り上げた人物である。

奇術の一種で、口に剣を飲み込むものがある。海外では、あの剣の替わりに先を鏡のようにした棒を呑み込み、胃を覗くことも志向されていた。もちろん奇術師でないと呑み込める人はいない。

上司の杉浦睦夫氏も位相差顕微鏡の開発を成功させた卓越した技術者である。当初は胃の中にカメラ本体を入れることを考えていたが、杉浦氏が、胃の中はそもそも真っ暗な暗室であることに気が付き、レンズと光とフィルムがあれば撮れることに気が付く。

しかし、小型のレンズの開発も容易ではない。やはり軍の仕事で実績を上げていた技術者が設計し、レンズ磨きの名人が作り上げる。

小さく、光の強い電球の開発も大変だった。メーカーを探し、そこの経営者、技術者なども一生懸命に開発に取り組んでくれる。何度も失敗しながら、実用に耐えるものを開発していく。

次はケーブルを入れる管の開発物語だ。細く、曲がるものの開発も難航する。

そして、やっと出来上がったら、今度は実験だ。胃に見立てたフラスコに水を入れ、その周りに方眼紙を付けて、水の中で写真が撮れるかを実験する。水が入らないようにするのも大変だった。そして、映ることに成功する。
今度は犬で実験だ。犬を麻酔で眠らせ、胃の中を洗浄して、そこに新しい水を入れて写すも、胃液が出てどうしても濁ってしまう。

そこで水を入れるのを諦め、空気を入れることにする。今度は映るが、中には胃壁にカメラがくっつき過ぎて映らないものもでる。ある程度の焦点距離が必要だ。しかも胃の中のどの辺を撮ったのかもわからない。

コンドームを使ったりして胃壁に当たらないように工夫し、あるとき、実験室が停電になった時に、胃のあたりでフラッシュが光ることを確認できたという偶然から、電気を消して胃カメラを入れることで胃の中の位置を認識することで解決する。

最後は人体での実験だ。2度ほど失敗する。そして東大の医師が胃潰瘍となり、自ら胃カメラを飲むことで撮影し、病気の判定、診断に役に立つことが実証される。その後も、医師仲間からの反論もあるが、認められていく。

面白い小説だった。そして、このような開発に取り組んだ先人に心から敬意を抱く。


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