「超絶技巧の源流 刀装具」 内藤直子 著

この本は刀装具のことを知る入門書としても、私のように刀装具の趣味が長い者にとっても良い本である。本文は119ページ、それも図版を多用してだから、読むだけならば1時間半程度で読める。楽に読めるのはそれだけが理由ではなく、文章も読みやすく、内容も読み進みたくなるようなことが網羅されているからである。そういう意味で薄っぺらの本ではない。

副題の「超絶技巧の源流」には、著者が、昨今もて囃されている明治金工の作品を念頭に、明治金工などよりも室町~江戸と続く刀装具の方が、より質も高く、多くの作者がいて豊潤な世界を形成しているということを言わんとしているような気がする。
私も同感であり、世の多くの美術館関係者に知ってもらいたい。

昔、我々の先輩は、明治金工の作品を”ハマモノ”と軽蔑していたのだ。軽蔑はともかくとして、ゴテゴテだけの作品は、それなりの位で観ろということだったと思う(ただ、昔もハマモノの作品は価格は高く、刀剣柴田の故青山氏と話したこともあったが、もちろん、その価格でも売れていたのだ)。
昨今の明治金工・超絶技巧が再評価されれば、いにしえの金工も再評価される訳で、その嚆矢に、この本がなることを願っている。

後藤祐乗から取り上げているが、それぞれの作品を読み解くキーワードが斬新である。ちなみに祐乗は「名品は大きく見える」である。そして、このキーワードを採用した所以を、古書や古人の言や、拡大写真による著者の視点解説で明らかにしていく。
明寿は「刀装具のルネッサンス」であり、なるほどと思う。他の作者におけるキーワードも幅広い視点であり、信家は「小林秀雄をうならせた鐔」とある。

金亀甲文圧出拵のキンキラキンの細川三斎所持の短刀拵は「真のセレブとはかくあるべし」と、金をふんだんに使っても成金趣味的なものにならないセンスを讃えている。
こぼれ話的な話題も入れており、ここでは支倉常長の肖像画を出して、彼も金の霰鮫の短刀拵を差していることを示し、時代の風潮もわかるようにしている。

奈良三作についても、利寿は「鐔に立体を発見」だ。なるほどと思う。安親は「誰からも愛される「安心」感」だ。これについては私は違和感があるが、一理ある見方である。乗意は「薄いほど上品」だ。著者が自分の眼で観ての感じをキャッチコピー的に使用している。私も含めて、世の愛好家は自分の眼で見ているようで、実は観ておらず先人の評をなぞっていることが多い中で、新鮮である。

知られていない金工では、仙台象嵌の金工を「仙台金工のモダンデザイン」として取り上げており、面白い。

「刀装具解体新書」として小柄の作り方を、分解されたものから説明している。ここに笄の作り方として問題が出ている。一見、据文したような作品が裏から打ち出して、表から彫り足していたり、逆に裏から打ち出しのように見える作品が表から鋤下げた作品を取り上げている。著者は暗に「表面から、これはこうして作っている」などと数寄者がもっともらしく言うのを皮肉っているようだ。私も自戒したい。

写真、特に鉄鐔作品や片切彫りの作品などは全体に暗くて、彫り口がわからないものもあり、残念であるが、刀装具の写真は小さく、細かいし、一色の高低差などがあって難しい。敢えて目立たないように彫った春画の小柄も所載されているが、詳しく見たいのだが、残念ながらわからない。

岩本昆寛の作品に粋を感じ、粋とは執着のないように、さらりと見えるものと定義づけている。そしてさらりと見える作品が実はよく見ると高い技術力に基づいて作られていると結んでいる。私は粋(いき)に関して、色気(男にも必要)が不可欠だと思っているが、著者の見方は尊重したい。

東明の粟穂作品について「一芸必殺!「粟穂」という看板商品」の表題もうまいと思う。まさにこの通りであり、数寄者の間でも「東明の粟穂」は常に人気だ。

河野春明の作品について”品格のある作品”と評している。春明はあるようで、あまり見かけず、見かけるのは簡単な作品が多い(偽物もあるか?)が、このような見方もあるのだなと勉強になった。

留守模様、見立てなどにも言及しているが、こういうものも刀装具の鑑賞に欠かせない。

続編を期待したい。

これはお勧めの本である。刀装具は内藤さんのこの本。刀剣は私の『江戸の日本刀』、これが今年の刀剣界のお勧めの本です(笑)。


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