「南京事件」 秦郁彦 著

この前、「従軍慰安婦 朝日新聞VS文藝春秋」(http://mirakudokuraku.at.webry.info/201506/article_11.html)を読んだから、終戦の日に先立って、中国が日本に突きつける歴史カードの南京事件のことについて勉強した。
私は以前に笠原十九司氏の「南京事件」を読んだことがある。その時も、虐殺した人数はともかくとして、不当に殺された中国人は多いことは否定できないと思った。この本でも、その思いは変わらない。

この本は1986年に出版された内容に2007年に「南京事件論争史」を追記したものだ。この追記にも書かれているが、南京事件は史実自体よりも、それをめぐる論争の方が重要になっている。追記部分に「諸君!」2001年2月号のアンケート結果(南京事件を論じている識者の不法殺害者数)が掲出されている。笠原十九司氏は10数万~20万人であり、一番多い約20万人と述べている研究者(藤原彰氏、高崎隆治氏、洞富雄氏)に次いで多く見ている。ちなみに、この本の著者秦氏は約4万人である。このアンケートで限りなくゼロに近いとしている人が東中野修道氏、藤岡信勝氏、高池勝彦氏、田中正明氏、富士信夫氏、大井満氏、阿羅健一氏といることに驚いた。渡部昇一氏も40~50人と”大虐殺はまぼろし派”である。著名な人では桜井よしこ氏が1万人前後と推計している。

中国が虐殺は30万人と唱えているから、その反動で、より少なく推計するのかもしれないが、秦氏が集めた当時の日記類などの史料を読むと、虐殺を否定するのはおかしいと思う。

ニューヨークタイムズの記者ダーディン氏は1937年12月13日の南京陥落を見た後に17日に日本軍の虐殺、略奪、強姦を報告・打電している。
南京に留まったフィッチ氏(国際安全区の幹事でYMCA書記長)は3月16日に、滞在した9週間の内、最初の2週間の暴行はひどかったと投稿している。一方で、暴行している兵を叱りつけている将校のことも記している。
ティンパリーは1938年に刊行した本に、日本軍の暴行を書いており、ここで30万人の数値が出されたようである。彼は直接、見聞していないが、外国大使館関係者などの準公文書的な記録をまとめたとしているが、ティンバリーは南京の国際安全区委員会が犠牲者数を4万人前後としていたのを無視している。ちなみに彼は国民党の宣伝工作の依頼を受けていた人物である。

日本人では石川達三が「生きている兵隊」でいくつかの暴行をおこなっている日本兵を書き、編集長ともども警視庁に連行されている。各新聞社から記者が何人も従軍・同行しているのだが、新聞記者は上を恐れてか筆にしていない。

東京裁判では松井石根大将が、この責任をとらされるが、田中隆吉少将が免責を条件に事件の責任者を告発している。それによると中島今朝吾第16師団長(戦後病死)、長勇大佐(沖縄で戦死)、佐々木到一中将(ソ連抑留中)、谷寿夫中将(第6師団長 B級戦犯で死刑)が責任者としている。彼も自身の関与は否定したが「南京大虐殺は、中島部隊の属せる南京攻略軍の主力方面の出来事」と述べている。
松井大将も「南京事件はお恥ずかしい限りです」と、恥ずかしい事態が生じたことは認めている。

南京事件の背景は次のようなことがある。①中国大陸の戦線が「戦争」ではなく「事変」の名称でどんどん広がり、中央の統制が取れなくなっている。②上海戦の後に、南京戦を松井は望む。上海戦は2ヶ月半にわたり、日本軍の損害は予想を上回った。この復讐戦に燃えた部隊が南京を攻略した。③中支那方面軍(松井石根大将)の配下の上海派遣軍(朝香宮中将)、第十軍(柳川平助中将)が先を争って、補給もおぼつかない中、進撃した。こういう時は味方同士の先陣競争を招きやすい。

④南京を守っていた国民党の唐生智司令官は死守の心構えがなく、放棄撤退の手順もなく、自分勝手に逃げていく。これも一因だろう。

⑤南京を7万人の日本軍が攻めるが、軍規取締にあたる憲兵は30人を越えない。⑥捕虜の取扱に関する指針が欠けていて、収容所や給養などの手配もしないのが実態であった。
⑦占領後の住民保護をふくむ軍政計画がない。日本兵は自活する物資もない飢えた兵の集団。
⑧城内の掃討が終わらず、治安が確立しないのに入城式の挙行を急がせた。皇族の朝香宮中将もおり、万が一の事故に神経質となる。

⑨一方、中国軍は軍服を脱ぎ捨てて民衆に紛れた。便衣兵が難民に交じって潜伏していると推測され、それもろともに攻撃という面があった。

捕虜の処分(殺害)を長勇中佐(上海派遣軍参謀)が指示した命令が出ている証言も多い。(松井大将の専属副官の角良晴少佐の証言、長中佐自身も田中隆吉に告白、宇都宮の114師団の「郷土部隊奮戦記」の記述、など)。

南京大虐殺は無かったというのは、無理があると思う。一方で何人までなら許容範囲ということも無いわけだから、日本としてはできるだけ事実を世界に伝えるしかないと思う。一方、中国はアイリス・チャン(後に自殺していることを知る)の著作「レイプ・オブ・南京」やジョン・ラーベの「南京の真実」などで世界に宣伝している。

戦争では、どの国も多かれ、少なかれ、非道なことをやる。アメリカも原爆や、空襲などで民間人を殺している。ロシアも満州で民間人を強姦し、物を略奪し、捕虜としてシベリアで強制労働させている。それが戦争。だから事実は認めるところから出発しないと、かえって信頼感を無くすと思う。




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