「一目置かれる知的教養日本美術鑑賞」秋元雄史 著

 軽薄なタイトルは編集部が売る為に付けたのだろうが、ポイントを押さえた日本美術の入門書で良い本である。ただし、校正が十分に出来ていないと感じるところもある。
 まずはじめに西洋美術と比較しての日本美術の特徴をあげている。西洋美術が革命の美術(既存の芸術を壊して新しい芸術価値を生み出す)に対して、日本美術は継承の美術で、伝統が重んじられ、技術や考え方をいかに継承するかが大事となっている。
 そして日本美術は時々に外来文化の影響を受け、進化・発酵・熟成を繰り返していると指摘する。
 また西洋美術はキリスト教の知識が無いとわかりにくいが、日本人が日本美術を理解する背景は基本的歴史知識があるだけに深くなるとも書いている。

 日本美術の特徴として、写実を追わずに、遠近法を多用しないデザイン=平面的で装飾的とし、それは西洋と違って1枚の絵ではなく、日常生活の装飾だからと説く。
 また四季のモチーフを選ぶように自然と近いのが日本美術に対して、西洋美術は宗教画、宗教を含む歴史画、王候の肖像画が格が高く、次いで風俗画、そして自然を描く風景画は格が低いとされてきた。要はカトリックがパトロンだからである。

 次ぎに、日本の歴史に則して、各時代の美術の特徴を大きく概観する。縄文の美が装飾性の原点。飛鳥・白鳳・奈良時代は仏教美術。遣唐使の廃止で和様が生まれ、優雅な王朝文化。鎌倉はリアリズムの仏像や末法思想で来迎図。室町は禅の美術で水墨画、茶の湯、能などが生まれ、破格で雄壮な桃山美術になると南蛮の影響とわびさびの美意識となる。そして、おだやかさと多様な江戸美術になり、そこでは権力者から市民階層も楽しむようになり、最たるものは浮世絵。江戸時代を分けると、江戸前期は狩野派中心と大和絵の伝統の土佐派に、光琳であり、江戸中期は沈南蘋の写実の影響で応挙、若冲が生まれ、江戸後期は文人画、洋風画、浮世絵となり、浮世絵は逆に西洋美術に多大の影響を与える。
明治に廃仏毀釈がおこり、その後フェノロサが日本美術を評価すると西洋美術排斥運動もおきる。

 次章は各時代の代表的作品を例に説明していく。なるほどと思ったことを記していくと次のようになる。
・源氏物語絵巻は個人で楽しんで見るもので、プライベートな視点であり、西洋の宗教画のパブリックな視点ではないとか、かな文字が生まれたように、柔らかな線、調和のとれた優美さが特徴。
・日本の建築は内と外の区別が曖昧であり、こういうことも自然とともにという精神につながる。西洋は壁(城壁)で内と外を分ける。
・鳥獣戯画はユーモラスな白描画で登場人物のキャラクターがわかる。輪廻思想で動物と人間は一体という日本人の感覚が出ている。
・鎌倉新仏教は仏教美術を重視しない点はヨーロッパのプロテスタントと似ている。
・雪舟の天橋立図は瑞々しい墨の濃淡と大胆かつ細やかな筆致、壮大な構図。狩野派が雪舟を神格化したので諸大名がこぞって雪舟の作品を求める。その後継者の狩野派の絵も大名に求められる。
・狩野永徳の唐獅子図屏風は豪華絢爛にして破格。金地に群青や緑青を厚く塗る金碧濃彩画。城郭の部屋を荘厳に演出する、舞台演出装置であり、屏風絵は権力を誇示する道具

美術の流れとして、縄文→永徳→東照宮→明治工芸の装飾的な美と、弥生→桂離宮→利休→柳宗悦の簡素な美としているのもなるほどと思う。