「小菅優&新日本フィルハーモニー交響楽団」於すみだトリフォニーホール

昨夜、標記の演奏会に妻と出向く。緊急事態宣言発出前だが、中止の連絡がいつ入るかと思っていたが、無事に開催された。
観客の座っている席は結構な間隔であり、そういう配慮はされている。

ベートーヴェン生誕250周年に関する催事の一環で、演目は「劇音楽エグモント序曲」「ピアノ協奏曲第1番 ハ長調」「ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 皇帝」の3曲である。
「劇音楽エグモント序曲」はオーケストラだけの演奏で、指揮は角田鋼亮である。劇音楽だけあって曲調の変化を伴いながらもダイナミックな曲で、オーケストラも力一杯の演奏も見せて、楽しい。序曲がこれだと、本篇への期待がいやがうえにも高まるだろう。

次からピアノが入る。ピアニストの小菅優さんははじめて知るが、ドイツで長く暮らし、ヨーロッパ各地の交響楽団と共演し、特にベートーヴェンの曲に思い入れがあると解説に記してある。
弱い打鍵でも音がクリアであり、また物凄く早い打鍵の場面でも一音一音が明確で見事な演奏だった。

ベートーヴェンが偉大なのは私が今更言うまでもないが、聴いていると、音楽に安らかさとか穏やかさを表現するにしても、その前に心を大きく波立たせるようなダイナミックなメロディ・音が入る。この後に安らぎが来るような音楽である。私のような人間には心が震えるような演奏が強く印象に残る。「ピアノ協奏曲第1番 ハ長調」では第1楽章、「ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 皇帝」でも第1楽章と、第3楽章の印象が強く残る。

音楽が教会で神に捧げる荘厳なものや、バックミュージック的に、食事、舞踏の場に流れていれば心地良いととらえていた当時の貴族には、音楽が主役となって心を騒がすようなベートーヴェンの曲は新鮮と同時に違和感を持ったことだろうと改めて思う。その曲、その演奏の為に音楽会に聴きに行くようにさせたのがベートーヴェンなのだろう。

ピアノの独奏の場面、ピアノが先導してオーケストラの演奏を引っ張る場面、逆にオーケストラの音に乗って、ピアノが入り込んでいく場面など、小菅さんと角田さんのオーケストラは一体となって楽しかった。

なお、この演奏はGO TOイベントの対象で、入場料が安くなっている。私はGo Toの特典を使ったことはなかったが、この演奏会ではじめて恩恵を受けた。

「司馬遼太郎全集18 戦雲の夢」司馬遼太郎著

長宗我部元親の息子の長宗我部盛親の物語である。私の好きな小説である。元親は晩年に嫡子信親を島津との戸次川の戦いで亡くした後は気力が衰え、秀吉亡き後を探る政局にも無関心となって秀吉没後に死ぬ。
元親には二男、三男がいたが、末子の盛親が跡をとるように元親生前に定める。次男は病死したが、三男は津野家に入り津野孫次郎親忠となる。盛親を家老の久武内蔵助が推しているが、権勢を強める久武に対して、国元では反感を持つ武士が多く、彼は津野孫次郎をもり立てようとする動きを強める。津野は藤堂高虎と関係があったとされ、関ヶ原後に何者かによって殺される。当然、盛親に関係のある者の殺害と予想されたこともあって、関ヶ原後の処分が厳しくなったと言う。

司馬遼太郎は盛親を欲の少ない男として描く。一騎駆けの武者として才能に溢れているが、戦国大名的な欲が薄い人物として描く。それが女性との接し方にも現れるとして、そのあたりを小説的に書いている。それら女性の中では、弥次兵衛の妹の田鶴、晩年に京都の具足師の娘の里が主な女性であり、他の公家娘とか京都所司代の隠密でもあった女などは小説の点景である。

徳川と石田の争い時においては、国元で東軍に参戦すると決めて、徳川家に使者を出すが、その使者が途中で西軍方の陣を抜けられずに戻ってきて、仕方無く西軍に付く。この時、山内家の使者は山伏に変装して、無事に東軍方へ妻女の手紙とともに届けられる。使者の首尾で、土佐を失った者と土佐を得た者の差が書かれていて興味深い。

西軍として参陣するが、西軍諸将の動向に失望する。そして伏見城の戦いに参戦して功を上げるが、関ヶ原の戦いでは毛利軍の近くで、戦場を傍観していただけで敗軍となって落ちのびる。
戦後、井伊家を通して詫びを入れるが、前述した津野孫次郎を殺害事件などで、心証を悪くして、改易となって死は免れるが京都所司代の監視の下で寺子屋の師匠として大岩祐夢と改名して過ごす。
この間に、自分の夢、男と生まれたからの生きがいが具体化してくる。

なお、盛親の行動の近くに、司馬遼太郎の小説らしく伊賀者の雲兵衛という者を登場させ、司馬遼太郎らしい筋を展開しやすくしている。また盛親の気が付かない夢を女遊びを教えて蕩けさせて、別の意味で市井に平穏に暮らす道に導こうとする本願寺坊主を登場させて、小説に厚みを持たしている。

盛親には幼き頃から一緒に過ごした家老の息子の桑名弥次兵衛がおり、この交流も物語に深みを添える。盛親との交流を通して、盛親の人柄、境遇などを生き生きと描写するのに活用している。大坂夏の陣で盛親の長宗我部軍と桑名弥次兵衛が属する藤堂軍が戦い、弥次兵衛が戦死する。

男の夢は事の成否は問わず、やりたいことを見つけ、それを実現すべく行動することと、長宗我部盛親の物語を通して書いている。