「江戸の画家たち」小林忠 著

江戸時代の絵画を、「得意の技法」「好みの主題」「画賛物の楽しみ」「見立絵の鑑賞」の4章に分けて述べている。
 そして、各章においても、何人かの画家を取り上げ、その画家の一つの作品(中には複数)を取り上げて、各章のテーマに即して解説している。これは、それぞれの篇が連載物として発表したことによる。だから一話で完結していて読みやすく、内容もなるほどと思うが、写真が白黒写真で絵の鑑賞する本としてはものたりない。

 はじめに江戸時代の絵画の特徴を日本の絵画史の流れを踏まえて概説している。大和絵と漢画の流れを無理なく自然に合流させ融合したのが狩野探幽であり、格調高く、瀟洒な趣致をもつ新古典様式を創りあげ、和画とよばれ規範となる。桃山時代の開放的で力動感や生命力の豊かな表現はなく、また室町時代の水墨画の精神性の深みも期待できないが、親しみやすい主題の軽淡で鮮麗な表現を評価すべきと書く。

 そこに長崎からの西洋画、漢画が入るが、その日本化も享保年間以降の画家の課題となった。また中期以降になると地域や身分を異にする在野の画家が出る。

 「得意の技法」の章では応挙の付立(つけたて:輪郭に線を用いず色や墨の面のひろがりにより形をあらわす没骨描の一技法で、一筆描で没骨の面を創り出す)、玉堂の擦筆(さつぴつ:乾いた筆を紙面にこすりつける)、森狙仙の毛描、宗達の彫塗(ほりぬり:下書きの描線を損なわないように避けて色を塗る彩色法)、懐月堂安度の肥痩線描、土佐光則の白描(色彩を排除した墨のみによる大和絵風の絵画)、池大雅の指墨(指に墨をつけて描く)、蘆雪の水墨、若冲の筋目描(水気をおびてにじみ広がる墨と墨の面にでる筋目)、中村芳中の垂込(たらしこみ:太い線や面を使って描き、完全に乾かない内に別の色彩を加えて自然にできるむらを生かす)、久隅守景の外隈(そとぐま:表そうとする物の形の外側を濃淡の墨の面でとり囲み、紙や絹の素地の白を積極的に活用するもの)、蕪村の草画(簡略な描写のうちで余情をたっぷりと伝える俳画)を解説している。

 「好みの主題」の章では吉祥画、風俗画、漫画、花鳥画、四君子画、見立絵に分けて、該当する絵を解説している。

 「画賛物の楽しみ」の章では1月から12月までにふさわしい画を描いたものを取り上げて、絵を季節に合わせて掛け替えた日本人の感性を解説している。西洋の絵画は季節に合わせて掛け替えることはしない。

 「見立絵の鑑賞」の章では、昔の日本あるいは中国の物語・画題を、江戸時代にふさわしく、絵の主人公や背景を変化させて描いており、なるほどと思う。例えば寒山拾得の画題における人物の姿を、湯女や町娘に置き換えて表現したり、源氏物語の御簾から女三の宮を見初める場面を、湯女が縄のれんから顔を出す絵に変えたりしている。
 伊藤若冲が釈迦の最期の釈迦涅槃図(釈迦の周りで多くの人物、動物が嘆いている)を野菜で取り合わせた絵もそうである。
 こういう古典の教養を当時の人が持っていたわけである。