「風神の門」司馬遼太郎 著

 司馬遼太郎全集2の「風神の門」である。司馬遼太郎が初期に書いていた忍者ものの時代小説である。
 主人公は伊賀者の霧隠才蔵で、舞台は関ヶ原の戦いが終わり、これから徳川方と大坂方の争いが想定される時期の京都から始まる。
 才蔵は堺の商人の為に情報を取ったりする仕事についており、八瀬の里にある茶屋に郎党と一緒に湯を浴びにいくところから始まる。そこで徳川方の刺客に襲われる。
 八瀬の里で顔がわからないが良い香りのする女性に会い、再見したいと思う。下忍を使って調べると、公家の菊亭大納言の姫とわかり、その屋敷に忍び込む。そこで姫に会うが、八瀬の里の女性とは違うことに気付く。八瀬の女は公家の娘の名を騙っていたわけである。
 その者は淀殿の侍女で、後にこの侍女が大坂方の諜報活動の中心人物として京都にいる牢人などに大坂方に参陣するように働きかけていたことがわかる。
 そして才蔵を襲った刺客らは徳川方の諜報機関に属する武士とわかる。
 こんな形で、大坂方、徳川方双方の暗躍に才蔵は巻き込まれ、それぞれから自陣営への参加を求められる。

 才蔵の生き方は、どちらの組織にも属さず、己の忍びの技術で生き抜くというものだが、一時は徳川方になって活躍し、次ぎには豊臣方となって活動していく。実際には、登場する魅力的な女性の為に、活動するようなはめになる。司馬遼太郎小説にまま見られるパターンである。

 霧隠才蔵はスーパーマン的な忍者である。前述した豊臣方の女棟梁は隠岐殿とよばれ、淀殿の侍女で大野治長の妹である。公家の菊亭大納言の姫は、菊亭大納言が豊臣方に近かった公家であり、豊臣方、徳川方のそれぞれに利用されて翻弄されていく。
 そこに、隠岐殿の腹違いの妹が登場する。当初は当然に豊臣方だが、実は徳川方の女間者だとわかる者も彩りを添える。

 また忍者間の闘争の中で、大坂方に属している猿飛佐助と出会う。猿飛は甲賀忍者で、甲賀忍者は伊賀忍者と違って、組織に属すとして、大坂方の、特に真田幸村に心酔していた。結局、猿飛佐助と協力して幸村の命で徳川家康の命を狙うことになる。

 この道中で、才蔵を助ける甲賀忍者の女が登場する。
 出てくる女性は皆、それなりに魅力的で才蔵は惹かれ、女性も才蔵を恋い慕う。
 家康暗殺では風魔忍者の強敵も現れる。そして最期は大坂で真田幸村の為に戦い、落城時には淀殿の侍女の隠岐殿を助けて落ち延びる。
 荒唐無稽な物語であり、このような小説だけなら、司馬遼太郎は大衆時代小説作家で終わったと思う。
 大坂方の武将としては真田幸村と後藤又兵衛が好きなようだ。
(本は文庫本を紹介する)