「売ろう物語」司馬遼太郎 著

 これも司馬遼太郎全集8に所載の短編の一つである。後藤又兵衛と同郷で幼馴染みの同姓同名の商人が主人公であるが、後藤又兵衛のことを書いている。
 黒田家が筑前で大封を得た時に又兵衛は一万六千石になる。商人の又兵衛は、又兵衛に連絡して筑前での商売の伝手を得ようとする。幼い頃は、同姓同名なので頭の形から武将の方は「なまず又兵衛」、商人の方は「柿阿又兵衛」と呼ばれていた。

 又兵衛は如水の薫陶を得るが、如水の跡を継いだ黒田長政とは相性が悪く、黒田家を退転する。隣りの細川家が二万石で召し抱えることになったが、黒田家からの横槍が入り、幕府も調整して、仕官は断念される。今度は福島家が三万石で迎え入れたいとの話があるが、又兵衛は蹴る。
 商人は仕官の際の石高に関して「自分を高く売るだけが商売ではない」と忠告もするが、その後は又兵衛を傭う大名が無くなる。零落した時に、伊豫の加藤家なら二、三千石ならなんとかなると口を利くが、又兵衛は断る。
そして大坂城からの誘いを受けて、大坂城に入る。夏の陣の前に、徳川家からの寝返りをすすめる使者が五十万石と言うのを聞いて満足して討ち死にしたと小説は終わる。

 途中で、黒田長政と後藤又兵衛の関係がまずくなっていく経緯も書いてあり、興味深い。
戦国乱世において男を発揮した英雄の一人だが、そういう男だけに平和の世では生きるのが難しい。また2代目の主君にとっては手に余る家臣となるわけだ。

 後藤又兵衛が自分自身で売り込みをしたわけではなく、商人の又兵衛が端で男の売値について述べているだけである。それにたいして「売ろう物語」のタイトルはふさわしくないのではと思う。また商人の又兵衛のことも、魅力的には描写されておらず、あまり面白くない小説である。