「武士の起源を解きあかす」 桃崎有一郎 著

馴染みが無い平安期のことが多く、私には読み難い本であったが面白い本であった。この人が解き明かした武士の起源が本当のような気がする。

武士が東国という地方で生まれたという説が一般的だったが、高橋昌明氏が武具も騎射などは都の衛府(軍事部門の役所)で生まれたのではないかとの魅力的な論を展開している。このブログでも高橋昌明氏の「武士の成立 武士像の創出」(https://mirakudokuraku.at.webry.info/201802/article_9.html)を紹介している。

この本の著者の論を簡単には紹介すると、武士は京を父とし、地方を母とするハイブリッドであると論じる。
都の貴族=王臣家の者が国司に任じられるが、当時の国司職は世襲ではなく、その任が終わった後に都に戻ることになる。王臣家の者が多くなると、都に戻ってもまともな職はない。そうなると、その国に居座り、地方の豪族の娘と婚姻することで勢力を伸ばすことをはじめ、それが武士となったとする。

この背景として、奈良時代の中期の聖武天皇の時(743年)に墾田永年私財法によって、私有財産が認められたことが大きなきっかけとする。開墾の計画者は国司に届け出る義務がある。許認可の権限を持つ国司が、これで私腹を肥やすようになる。
桓武は国司の水田、陸田の所有を禁止。郡司も同罪とした。次の平城天皇は802年に方針転換をして、ある程度までの田地所有を許す。また聖武朝では国司と郡司・百姓の娘との婚姻の禁止を打ち出したりしていた。
しかし私有財産は拡大していき、後の荘園制につながっていく。国司の違法行為は当然に禁じられていたが、身分の高い者の犯罪は罪が減じられることもあり、法律は骨抜きになる。

そして王臣家が特に増えたのは桓武天皇が子どもを32人も作ったころからである。その皇子にも子どもが生まれ、ねずみ算式に増加していく。中央に職が無くなり、臣籍降下して地方に根付くきっかけとなったわけである。桓武期の782年に氷上川継の乱が発覚し、多くの貴族が連座した。藤原秀郷の子孫が下野に土着するきっかけとなる。嵯峨天皇も多くの子を作り、彼等に源姓を与えて臣籍降下させる。そして親王任国制度(上総、常陸、上野)が発足した。

国司の下で年貢を集め、都に送るのは郡司階級の責任だが、その地に居座った前国司やそれと結託した者などによって妨害される。年貢未納の責任も追及される。そこで郡司階級は疲弊して、群盗になる者、また王臣家に取り入って一緒に悪事をする者などに分かれる。
こうして治安は乱れ、群盗や俘囚の乱、僦馬の党と呼ばれる機動的な盗賊団などが発生し、平将門の乱も発生する。(これまでにも将門と同様な事件・行動が発生していたが、将門は天皇に代わって新皇ということを唱えたことで大きな問題となる)

なお郡司階級は昔の国造の流れもひいており、その土地に長く根付いている。一方、王臣家は京の貴種である。当時の婚姻は妻問婚であり、王臣家が居座りやすかった。

平安初期までの朝廷の常備軍は徴兵された百姓が大部分で、プロの戦士の兵は領主であり、郎党を持つ。要はプロの戦士とは弓矢と馬の扱いができるかどうかである。すなわち弓馬の道は技能が難しく、郡司や富豪百姓のような有閑階級でないと習得ができないのである。馬は飼育にも金がかかる。著者はこれらの階級の武人を「有閑弓騎」と呼んでいる。だからこれらの人は自ら農業は行わず、農民を使って勧農は行う。馬を飼って、騎馬術を身に付け、弓術の練習をしていたクラスである。
東国に出現した武士は裁定者、仲裁者としての王臣家らしい意識を持っていた。すなわち地域や小規模な社会のまとめ役であろうとすることを根本的な存在意義としていたことが平将門の乱の当事者たちの行動を見るとうかがえる。

都の貴族の中には位は低いが、兵衛や滝口などの武士の役目もあった。そして坂上、紀、大伴、文室、小野などの有力な武士を輩出することで名高い家もあった。
後の武家の先祖として有名になる藤原秀郷のさらに先祖は蝦夷の俘囚などの対策で、軍事技術を学んだのではないかとも論じている。また平家の祖の葛原王は馬の牧で有名な地をもらうことで、馬に馴染んだのではと論じている。また平良持が鎮守府将軍として陸奥に赴任したときに騎射術を学んで武の伝統は身に付けたのではないかと推測している。こうして王臣家の貴種でありながら武の伝統を持つ家も生じていた。これらの王臣家の血と地方豪族の血が混じって武士が誕生したというのが、「京を父とし、地方を母とするハイブリッド」という意味である。

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