「勝矢コレクション刀装具受贈記念 決定版 刀装具鑑賞入門」 大阪歴史博物館

大阪歴史博物館が、刀装具のコレクターであり、研究家であった勝矢俊一氏のコレクション900点の寄贈を受けたことで、展覧会を開催し、その目録も兼ねて、刀装具鑑賞に資する本にもなるカタログを製作された。
なお今回勝矢氏の御親族から寄贈を受けたのは勝矢氏が蒐集したものの約半数とのことだ。勝矢氏は信家鐔の研究において、その図柄においてキリスト教関係のものがあることに着目されて製作時代等を明確にされた業績も輝いている。だから信家鐔もコレクションには多くあったと思われるが、今回のカタログには掲載されていない。なお寄贈品リストには信家も金家の在銘品もあるが、それらは銘が悪いのだろうか、あるいはこのカタログ製作の意図にそぐわないから除外したのであろうか。ともかく触れられてはいない。

はじめに勝矢俊一氏のコレクター、研究家としての人生を紹介する。次ぎに漫画を使った刀装具が刀の外装にどのように使われているかを説明する。昨今の刀剣女子を意識している。
その後に「1.鐔-鉄を愛で、意匠を解き、地域を知る」で、コレクションの中の鐔の何枚かを紹介して、大小鐔、透鐔、鉄の鍛え肌や鐔の下地を説明する。次ぎに鐔のデザインで良く表れるものを紹介し、今度は図柄の持つ意味(そこで留守模様なども紹介)をいくつか解き明かす。そして同じ図柄で作者が違うものを比較しての考察や、透かしの陽の透かしと陰の透かしのことや、古作の写し物、それから古来から言われている伝統的な分類のいくつかを説明する。銅の地金の鐔や、尾張透かしと京透かしの図柄の特色、鏡師、刀匠、甲冑師という本職以外の人が造ったとされている鐔を説明し、江戸時代に日本の各地で造られた鐔を紹介していく。こういう中で鐔の技法や形状などもコラム的に解説している。備後の其阿弥のデザイン力、長州鐔の水墨風(雪舟以来の伝統)の紹介などは特記される。

「2.揃金具-意匠の統一性を楽しむ」では室町時代の作品、後藤家(京後藤家も含めて)、町彫り諸工の作品などを紹介する。

「3.小柄-名品で学ぶ金工の諸流派」では後藤家の極め銘と自身銘のこと、後藤分家と後藤家に学んだ金工(戸張、野村)、桃山時代の金工、加賀象嵌、浜野一門、奈良派、柳川一門、大森一門、石黒一門、村上如竹、京都の金工と分け、最期に木製小柄という珍しいものを掲載している。有名金工のものが登場してくる。

「4.笄、目貫」は少ないが、章を立てて紹介している。
「5.縁頭-視点を絞る」では小柄は各流派を網羅的に蒐集されているのに対して、縁頭では村上如竹一門が多く、蒐集されているので「視点を絞る」という副題になっている。如竹一門以外では近江と美濃の縁頭を紹介して、共通する特色としての図柄の濃密さを指摘している。

そのほか後藤七郎右衛門家(一乗の実家)の伝来ではないかと推測している「ヤニ型(刀装具の完成品に松脂と墨などを混ぜたものを押し当てて型取りしたもの)」のコレクションを紹介している。黒いもので写真ではどんな作品かはわからないが、それに「徳乗作 光覧極」などの説明が添付してあり、詳しく研究すると面白いものだろう。ちなみにこのようなヤニ型は大阪城天守閣に末永雅雄氏のコレクションがあり、京都国立博物館にもあるようだ。

さらに併設展示をしている根付作品ーこれらは根付の研究で名高い渡邊正憲氏から寄贈を受けた-も所載されている。
また大阪で活躍された現代の装剣金工阪井俊政氏の作品も10点ほど紹介している。阪井氏は勝矢氏に教えを受けた時期もあるようだ。

最期に勝矢コレクション総覧として、白黒の小さい写真だが、全作品が掲載され、それぞれの作品概要が名称、銘、法量だけだが掲載されている。

以上に概説したカタログの構成からもわかるように、従来の刀装具の書にない新味な工夫をしており、意欲的である。900点を超える寄贈品から、このようなカタログにまとめ上げるのは大変な苦労だったと思う。

従来の透かし鐔の分類名称である尾張、京などを使っている箇所もあるが、それら流派の特徴を説明するような箇所は一つもない。これらの分類は根拠がないから、あえて避けたのではと思う。
各金工個々の説明も詳しくない。これも伝承の話が多く、また今回の解説方法の中では不要と考えてのことであろう。
図柄の説明の箇所に、はじめて知ることもあり、なるほどと思う。葡萄に栗鼠の図の説明に私などは「武道に立す」と習っていたが「武道に律す」とあった。また片輪車の説明に、木製の車輪にひび割れが起きないように水に浸けるなどの説明を読んで勉強になった。
金工の彫技に関しても、浜野一派の特色として「肉取りの技術とリアルな人物表現を流派の特徴」と的確な評をしている。長州鐔の図柄における雪舟一派の影響という指摘もなるほどと思う。

写真は必要最低限は映っているが、被写体=作品に対する愛情が足りない感じである。これだけの数を記録撮影するのが第一であったわけであり、やむを得ないだろう。刀装具の魅力がわかる拡大写真も無い。

掲載された刀装具には私の好みのものが少ないが、戸張富久の再評価には賛成である。

執筆の中心は内藤直子氏だと思うが、今後も従来の刀装具研究とは別の視点ー例えば日本美術全体の幅広い視点-からの手垢にまみれた評ではない言葉での評、史料が無い中だができるだけ根拠のある資料に基づく論に期待したい。根拠となる資料も無いのに京金工、京金具師との極めなどを払拭して欲しい。

なお、巻末に協力者として私の名前が挙げられているが、勝矢氏の論文の検索をしただけである。

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