「正社員が没落する」堤未果、湯浅誠 著

昔、読んだ本だが、調べ物があり、再読する。湯浅氏は「年越し派遣村」の村長をつとめた人物で、堤氏はアメリカの実情を『ルポ 貧困大国アメリカ』に著したジャーナリストである。
この2人で、日本でも格差社会が拡大している実情を述べ、対談している本である。2009年の出版であるが、現在の方がオリンピック需要もあり、景気も好転しているが、状況は大差ないのだろうか。

堤氏はアメリカでは、医師も転落する実態を示している。医療過誤保険の保険料が18万ドルと高騰し、それを年収20万ドルの医師の給料で支払い続けることが困難になり、医師を辞めて、底辺に転落する事例紹介である。そして米国では医療の現場に保険会社が入ってきて、治療の内容・時間まで実質指示するようになっている現状を述べる。なお医療を受ける個人が負担する保険料は年間1.5万ドルくらいとのことだ。そして一度、病気すると保険料は上がる。また医療費も高額で、歯の治療費も詰め物だけで1500ドルもするそうだ。
米国の医療保険制度を知らないから、ピンと来ないところもある。

医師だけでなく、教師、公務員、製造業の中間クラスも、政府が急激に進めた社会保障費削減政策や民営化による競争原理導入で落ちこぼれていくと書く。「落ちこぼれゼロ法」で教育現場に競争が導入される。全国一斉学力テストが義務づけられ、その成績が教師の査定に結びつく。だから教師の中には平均点を下げる生徒がテストを受験しないように試験当日に休ませたり、事前にテスト問題を教えるようなことを行う。
そして、そのような落ちこぼれ学生を軍に志願させるように仕向けられたりするという。
また若い世代は学費の高騰と学資ローンで厳しくなる。

アメリカは社会保障の薄い部分をNPOと教会が支える。慈善精神によって教会主体でスープキッチンと呼ばれる無料給食所がある。税制と文化によって金持ちがチャリティで寄進する風土も存在する。

日本ではリストラ、非正規雇用で貧困になる。このような人々は企業福祉から脱落し、貯蓄、家族等の人間関係などの溜めが無くなると一挙に貧困になる。
これまでの年功型賃金は働いている一人の賃金ではなく、家族全体を支える賃金だったわけであるが、それが崩壊している。一方で社会保険料は上がり続ける。
社会保険料が上がると、企業はその負担を厭がり、社員を独立させて、一人親方的な経営者にして、仕事を外注。もちろん仕事がある時だけだが。一人親方は自分で国民年金や国民健康保険に加入し、自分が経営者だから残業時間規制も無しに働くということだ。病気になって働けなくなれば、一挙に貧困層になる。マスコミの現場も一人親方が多くなり、非正規雇用ばかりになっていると言う。

日本はアメリカの年次改革要望書に即して、法令などが整備されていく。こうしてアメリカ並みになるが、アメリカと違って社会にチャリティの思想がないと説く。

現在は企業の内部留保は史上最大の額に膨れあがっていると言う。これが社員の給料を、以上のようなことで抑えてきた結果ならば、問題はあると感じる。
なお、アメリカは国民を消費者、ヨーロッパは市民と見ていると記す。市民は人権などの守られるべき権利があるが、消費者は商品を買ってくれるという視点だけだとも問題提起をしている。