「興津彌五右衛門の遺書」「阿部一族」「堺事件」 森鴎外 著

森鴎外の時代小説である。「興津彌五右衛門の遺書」は細川三斎の臣で、長崎で安南からの船が輸入した珍しい品を購入するように同僚と派遣された主人公が、一番良い香木を買おうとする。伊達家も、それを狙っていて、値が釣り上がる。同僚はそこまで高い値で買うようなものでなく、一ランク落ちたものでもいいのではと言うが、主人公は主命だからと譲らず、結局、この諍いで同僚を殺し(先に手を出したのは同僚の方)、一番良い香木を入手する。
帰国後、三斎に同僚を殺した顛末を言上して、切腹の許しを乞うが、許されずに、その後も三斎公亡き後も勤めを果たす。そして三斎公の十三回忌に切腹することになり、その経緯を書いた遺書という形式の小説である。

乃木大将が明治天皇に殉じた時に、発表した小説として有名である。乃木大将が若年の折の軍旗紛失の責任を常に思いながら殉死に到るが、それに触発された面も確かにあると感じる。

「阿部一族」は細川忠利に仕えた重臣が、殉死の許しが得ないで、新藩主に仕えていたが、寵臣や大事にしていた鷹や、犬の世話をしていた小者までが殉死する中で、白い目を向けられて、許しのないまま殉死する。その後、阿部家は総石高は変更無いものの、一族に分割され、他の殉死の家族に比べて不遇であった。
藩主の法要の時に嫡子は、そこで髻を切るようなことをして、新藩主の怒りを買う。その後、新藩主からの討っ手が派遣されることになり、一族は討ち死する。その折の親しい燐家とのやりとりなどが小説の綾をなす。
殉死に対する問題的とも考えられる。

これは原本となるような古史料があり、それを脚色したものである。森鴎外なりに、乃木大将の殉死を考えていたことは理解できる。

「堺事件」は維新後に堺の治安維持を任された土佐藩が、不法にやってきたフランス人水兵を殺す。フランス政府が賠償と、処罰を求め、土佐藩は殺したフランス人と同数の警備兵を切腹させることになる。
フランス側からの検視も来るのだが、切腹の凄惨な現場を見て、途中で退席してしまい、執行人数は減じられる。
土佐藩士の気分、意気がよく書けている。

これらの森鴎外の時代小説は、小説というよりは事実(本当の事実かは不明だが)を淡々と書いているような感じである。

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