「満州建国の真実」 鈴木荘一 著

幕末~近代史に造詣が深い知人の鈴木氏の新作である。副題に「究極の敗戦利得者日本外務省が隠蔽する」と「軍事の天才石原莞爾の野望と挫折」がついている。

この書では、著者の特質である埋もれた史実を掘り起こしての歴史観が展開されているが、著者の主張が少し強く出過ぎていていると感じる。
満州建国について著者は「帝制ロシアに侵略された満州遊牧民族の独立の夢に日本陸軍が協力し、ロシア革命後の共産ソ連の軍事膨張に対する防共国防国家の建設を目指したものだった」と説く。そして諸外国=国際連盟に対しては満州事変は「ソ連の軍事膨張に対する防共国防活動」と丁寧に説明すべきだったと言う。

この後の歴史的事実として、共産ソ連は、モンゴルに傀儡政権を作り、中共と一緒になって朝鮮戦争を起こす。西ではポーランドをドイツと分割侵略し、フィンランド、バルト三国、ルーマニアを侵略して国際社会は痛い目にあう。

だから、ソ連の軍事膨張に対する防共国防活動と言う主張は一理あるのだが、この過程で日本軍(関東軍)が中国に対して行ったことは、侵略者として中国人民を下に見た施策だったことは否めない。そういう点で、鈴木さんの主張が強く出過ぎていると感じるのである。

当時の満州の情勢、特に馬賊(草原・牧畜社会における中世的な運輸業者)の勢力を明らかにし、その実態と、ロシアの鉄道敷設(これは近代の運輸業)の状況との葛藤を説き明かしているところなどは鈴木史観の魅力的なところである。

そこに登場した張作霖という人物のキャラクター、それに接する日本側の各立場ごとの違いなども丁寧に書いている。
日本側の各立場の違いとは、日本国内の政治、軍事における派閥争いでもある。これを説明する為に、著者は1921年のワントン軍縮条約からの日本の軍縮と、それによる国際協調、大正デモクラシーの政治と、1923年の関東大震災、1929年に世界大恐慌などでの農村の疲弊、また大恐慌による世界経済のブロック経済化などの政治経済の流れも丁寧かつ簡潔に言及している。

こうした中でアメリカでは対日基本戦略(=戦争プラン)であるオレンジ計画が立案され、日本でも識者の間で日米開戦に対する危惧がささやかれる。

著者は当時の陸軍について、①宇垣派(軍縮を通じて装備近代化を図り、軍事予算の膨張を避ける)、②皇道派(政党政治を否定し、陸軍予算と農村救済予算の増額を求め、対ソ戦を想定、シナ・英米とは協調)、③満州組(政党政治を否定、軍事費増額、対ソ戦を想定、シナとは不戦)、④統制派(政党政治否定、陸軍予算増額、ドイツと連携し、ソ連、英米と戦う)と分類する。従来の皇道派と統制派の2大派閥論とは違った視点である。
石原莞爾は③である。

著者が外務省に厳しいのは、日独伊三国同盟を松岡洋右外相が固執して日米との和解案などをことごとくつぶしてきたことによる。

石原莞爾については、「日支不戦を唱えた石原莞爾の挫折」という章で述べているが、盧溝橋事件の時から石原莞爾は支那との戦争はするなと唱えていて、結果として左遷される。彼の不戦の理由は当時中国軍はドイツの指導で軍備を充実しており、勝てないということである。
この章の記述だけでは軍事の天才というほどの内容はうかがえない。

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