「逝きし世の面影」 渡辺京二 著

江戸時代末期から明治にかけて来日した人が、日本について記している文章を渉猟して、そこから江戸時代末期には欧米人が称賛する文明が日本に存在したということを明らかにしている。永井荷風なども、そのような江戸時代の文化を懐かしんでおり、別の視点から説いたものであり、興味深かった。

「1章 ある文明の幻影」で、日本の近代は江戸時代後期の文明の滅亡の上にうち立てられたが、当時来日した外国人はある面では西洋を凌駕していた文明が近代化で滅ぶのを感づいていたことを記している。

「2章 陽気な人々」では、この国の人は満足しており幸福だとの印象を受けたことを記している。具体的には落ち着いていて、顔つきはいきいきとして愛想良く、才走った風があり、女はにこやかで小意気、陽気で桜色、きびきびした様子だと記す。そして、どこへ行ってももてなされ、代金は安価。みんな善良な人で、根が親切と真心は日本の下層階級の特徴だと書く。そしてむきだしだが不快ではない好奇心を持っていて、江戸庶民は社交好きな本能、上機嫌な素質、当意即妙の才、陽気、天真爛漫、気質がさっぱり、物に拘泥しない。そして日本人が子供好きで、日本人の顔は満足した幸せな表情をしている。

「3章 簡素とゆたかさ」では、衣食住に対する豊かさがあったと書く。食べたいだけは食べ、着物にも困っておらず、家屋は清潔で、日当たりもよくて気持ちがよいとの印象だ。郊外の豊穣さは、山の上まで見事な稲田があり、海の際までことごとく耕作されていることだ。そして日本人が他の東洋諸民族と異なる特性の一つは、奢侈贅沢に執着心を持たないこと。非常に高貴な人の屋敷ですら簡素、単純極まるとの印象を持つ。

「4章 親和と礼節」では、皮膚病は多く、性的放縦と飲酒が西洋人からみると悪徳だと感じる。一般民衆は丁寧で親切。無邪気で人懐っこい、善良。好奇心にとみ、生き生き。庶民の家も開けっぴろげ。近隣に親和と連帯が生じる。人々の心も開放されていた。争いがなく、おとなしい秩序正しさがある。人力車夫もくじ引きで乗る車を決め、すれちがってぶつかっても互いに丁寧に許しを請う。挙動の礼儀正しさ、優雅さがある。礼節によって生活を楽しいものにしている。

「5章 雑多と充溢」では、この国の下層の人々は生き生きとして愉快。日本人の日常生活は芝居じみていて、舞台用の美術・装飾的小道具であふれている。道路も店も芝居のセットみたい。職業が細かく分かれ、多様。職業に特有の衣装、道具、かけ声などがある。按摩さんもよく見かけるが、本来の職業だけでなく金貸しをしている。羽織の紐だけの商売もある。商品に愛着を持つ。商人と同時に職人。だから低廉な品物が美しく、これが欧米にジャポニズムを巻き起こす。衣装の趣味が簡素で優雅とも書く。

「6章 労働と身体」では、生活とか労働をのんきに考えている。いそがしそうであるが適度に働く。働かなくてはいけない時は働き、休みたい時は休む。歌を歌ったりして効率は悪い。だけど楽しそうに労働する。労働時間の9割は歌だ。悠長に旅をし、たびたび立ち止まり、うすい茶を飲む。労働者は聡明で、器用であり、性質がやさしく、陽気である。勤勉というより活動的。精力的というより我慢強い。
大きい利益の為に疲れ果てるまで苦労しない。そして労働者の肉体について、足が短い点を除いて、欧米人は高く評価している。「下層階級は概して強壮で、腕や脚や胸部がよく発達している。上流階級はしばしば病弱である。」「日本の肉体労働者は衣服と身体つきの美しさという点で、中流、上流の人々をはるかにしのいでいる。上流はローマ人的な鼻、民衆はずんぐりしていて先が上向きでふくらんでいる。」

「7章 自由と身分」では、奉行といえども日本の掟を守る。日本政府は民衆に対してあまり権力を持っていない。建前と現実に大きな乖離があり、不適当なことを内分(承認された微行)で行う。農村に武士は存在しないから、純粋な生産者集団。村請制で自分たちのことは自分たちでの自己責任。専制主義はこの国ではただの名目だけ。自分たちの義務を遂行する日本人たちは完全に自由であり、独立的。将軍、大名の実権は、家臣団に移行している。日本の上層階級は下層の人々を大層大事に扱う。主人と召使いの間に友好的な親密な関係があふれている。家庭の使用人は欧米の感覚では無礼だが、成果は出す。やりかたは使用人の自由にさせろという感覚だ。手だけでなく、意志と知力で仕えようとしているのがわかる。

「8章 裸体と性」では、裸体と混浴を、この国が一番みだらと書く人もいるが、気候に関連した慣習とか、思いよこしまなものに災いあれであり、別に日本人はよこしまなことを思わないから問題ないと弁護する人もいる。羞恥心という悪習を日本人が持っていなかったと書く人もある。
春本に驚く。特にそれを女が観ているのに驚く。日本人は愛によって結婚しない。婦女子の貞操観念が他のどの国よりも高く、ただ公娼制度がある。そこでは年季が明ければ結婚もできることにも驚く。

「9章 女の位相」では、日本の未婚の娘たちの独特な魅力を記し、ムスメは英語、フランス語になっていることを書く。控え目で親切な物腰、たとえようもない美しい頭髪と気の利いた結髪。すべてこぎれいでさっぱりしている、かわいいい。日本の女性の肌は若い内は黄色でない。色白、赤みを帯びた肌、豊かで黒い髪と書く。そして欠点はお歯黒と白粉のべた塗りと記す。そして、日本女性の地位は高いと感じた外国人も多い。

こんな調子で「10章 子どもの楽園」で子供が大事にされていることを、 「11章 風景とコスモス」で、スイスに匹敵する美しく、恵まれた自然を書く。そして園芸も発達したことに驚く。「12章 生類とコスモス」では、昆虫や動物のことに触れる。「13章 信仰と祭」では宗教心の薄い民族とみる。

最後に著者は「幕末に異邦人たちあ目撃した徳川後期文明は、ひとつの完成の域に達した文明だった。それはその成員の親和と幸福感、あたえられた生を無欲に楽しむ気楽さと諦念、自然環境と日月の運行を年中行事として生活化する仕組みにおいて、異邦人を賛嘆へと誘わずにはいない文明であった。しかしそれは亡びねばならぬ文明であった。徳川後期社会は、いわゆる幕藩制の制度的矛盾によって、いずれは政治、経済の領域から崩壊すべく運命づけられていたといわれる。」と結んでいる。


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