「真昼の花火」 吉村昭 著

吉村昭の短編と随筆を集めた本である。「牛乳瓶」、「弔鐘」、「真昼の花火」、「四十年ぶりの卒業証書」の4編が納められている。
「牛乳瓶」は随筆だが、著者の若い時、すなわち戦前に町にあった牛乳屋が、大手牛乳メーカーが販売を伸ばしてくる中で夫婦で頑張っていた。著者の家もそこから牛乳を買っていた。戦争の拡大につれて、亭主が徴兵され、戦死する。そこで妻は幼子を抱えながら甥と営業を始める。その内に、このあたり一帯が空襲に遭う。牛乳店のその後の消息はわからなくなるが、そこを著者が昔を懐かしみ歩く中で、その牛乳屋のその後を知る知人に会い、その妻は最近亡くなるが、その子供は立派に成長して人を使うまでになっていることを知る。それだけの物語だが、当時の庶民の生活や、戦争の悲惨さなどがわかる。

「弔鐘」はボクサーの物語である。勝ち進んでいるボクサーの姿を、その後見者、セコンドという役割なのかはわからないが、その人物から見た物語である。このボクサーは強いのだが、試合前に時々失踪する。相手を殺したこともあるような外人の強豪相手の試合の前にやはり失踪する。姉などに聞いて探し出し、戦いに挑む。そこで壮絶な打ち合いの末に勝利を掴むが、その後に試合の後遺症で死ぬ。そのボクサーの心理が、ボクサーとはこんな心理状態になるのだろうなと思わせるように小説としている。印象的な短編である。

「真昼の花火」はふとん綿の打ち直し屋の息子で、今は化繊メーカーの宣伝部に入っている男の物語である。ふとんの打ち直しは、その布団で長く患って死んだ人のふとんも打ち直す。そんな情景から小説は入っていく。
化繊メーカーが化繊のふとんを作り、売り出す宣伝文句を考える。「軽い」「打ち直し不要」などの宣伝文句はデパートの消費者の心を捕らえる。しかし「打ち直し不要」という宣伝文句は実家の家業を直撃する。この組合から家業がボイコットされるような事態になる。
会社ではやり手の課長の元で、評価されて働く。この課長は女にもやり手で部下の女性に手を出している。
この男の宣伝コピーが打ち直し業界から反発を受けて、結局、彼が責任を取らされて左遷させられる。この時に課長の不倫相手の女性が壮絶な手段で自殺する。なかなか迫力のある短編である。
「真昼の花火」というタイトルはよくわからないのだが、化繊のカラフルなふとんのイメージ、宣伝においてネオンサインなどが消費者に訴えかける様子などや、効果的な宣伝が花火のように一時的なものと言うことを物語っているのだろうか。それとも、課長の不倫相手や、主人公の人生のように、花開く時は一時的ということを暗示しているのだろうか。吉村昭は短編も名手である。

「四十年ぶりの卒業証書」は随筆で、戦争末期に中学の卒業証書をもらったかどうかが、同期の集まりで話題になり、その顛末を書いている。戦争というものを一つの視点から観ているものである。


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