「二つの祖国」 山崎豊子 著

これを読み終わったことで、山崎豊子の戦争関連三部作を読み終えたことになる。
「大地の子」http://mirakudokuraku.at.webry.info/201510/article_3.html
「不毛地帯」http://mirakudokuraku.at.webry.info/201606/article_16.htmlとこの「二つの祖国」である。
この本は、アメリカ移民の一世、二世の戦争中の辛苦を描いた小説であり、その過程で戦争そのものの悲惨さを描いている。特に主人公に関係する人物が広島出身の移民ということから原爆の悲惨さも小説に取り込んでいる。
また主人公が英語だけでなく日本語も堪能ということで戦争中は情報機関に入り、そこで知った戦争の実態や、後にフィリピン戦争で悲惨さ(ここに主人公の弟が日本に戻っていて日本兵として戦うという設定)、加えて主人公が東京裁判における通訳をチェックする係になったことでの東京裁判のことなどが詳しく書かれている。

いつもながらの山崎豊子の取材力である。取材した事実を小説として読ませる為に構成し直しているのだが、次から次へ、興味深い事象が起こり、読者を飽きささずに、文庫本で4冊の長編を読ませていく。

第1巻は、アメリカに移民となって行った日系人の苦労が書いてある。主人公の父母は、もの凄い人種差別の中で農業労働に従事して、リトルトーキョーでクリーニング店を営むまでになる。一世の人は同様に各人が苦労して、日系人社会を築くようになる。
人種差別に遭うのは二世においても同様だ。遠慮の無い子ども社会の時も差別されるが、学業を修めて成人してもろくな仕事は無く、社会の底辺で軽蔑されて働かざるを得ない。

そこに太平洋戦争である。だまし討ちの世論の中で、理不尽なことに日系人は収容所に入れられる。12万人が砂漠の奥の収容所に隔離されたと伝わる。ドイツ、イタリア系の移民は、そのようなことはない。明らかに人種差別である。仮収容所は競馬場の厩舎を改装したようなところだ。これまでの財産も、直ぐに処分を求められる。
そこで一世はもちろんアメリカ国籍のある二世もアメリカへの忠誠心テスト(踏み絵のような)を受けさせられる。

こういう中で、移民の中にも様々な考え方の者が生まれる。アメリカに協力的なものはバナナ(表面黄色だが、中は白)として軽蔑されるが、それはそれで日本人の地位を高めようと立ち回る。一方で、これまでいじめられていたがゆえにより国粋的になる一団もいる。こうして日系社会の亀裂を広めていく。

主人公は一時日本でも学び、今は新聞社に勤め、日本人の心情も色濃く持つ男である。日本語能力を活かして米軍への協力を求められ、結局は日本兵の通信を傍受・解析するようになる。弟は二人いるが、一人の弟は日本に戻っており、後に日本兵となってフィリピンの戦場で相まみえる。弟は日本人として勇敢に戦うが、アメリカ帰りの二世ということで、日本の軍隊の中で陰惨な虐めにあう。日系人は本国日本においてもスパイではないかとかで虐められていたのだ。
もう一人の弟はアメリカ社会で育ち、日系人部隊に志願することで日系人の地位を認めてもらうように生きる。結局、ドイツの戦場で勇敢に戦い戦死する。勲章をもらうような戦いぶりであった。

第2巻では戦場、具体的にはフィリピン戦争の悲惨な場面、それに広島原爆の場面である。米軍内でうまく立ち回るバナナと陰口をたたかれる男は主人公の友人でもあるが、その妻と主人公は一時惹かれあう。この夫婦はすぐに離婚して、妻は両親とともに交換船で日本に帰る。日本でも二世ということで嫌がらせを受け、米軍向け放送における東京ローズ的役割を求められる。断って憲兵にいじめられる。

この女性の一家は帰宅先が広島のそばで、父母は原爆に遭って悲惨な最期を遂げる。女性は大丈夫だったが、後に被爆による白血病となる。この女性は日本に来た主人公の心の支えとなる。この妹は米国に残っており、看護学を学び、後に広島の病院(米軍検査機関)に務める。

主人公が結婚した女性はアメリカナイズされた日系人で、収容所で最初の子供を産み、後にもう一人の子供を授かる。主人公が米軍の情報機関で働く中、実家に戻るが、治安の悪い中、白人に強姦され、アルコールに浸るようになる。

フィリピンの悲惨な戦争場面が弟の立場で描写され、その戦場で、兄が誤って弟を撃つということがおこる。この結果、弟は捕虜になり、戦死から免れるが、兄弟の関係は微妙となる。

そして、主人公はフィリピンから戦後の日本に来て、東京裁判のモニターとなる。モニターとは通訳の誤りをチェックする係である。日本に来たら来たで、アメリカ帰りとして白い目で見られる。

第3巻は東京裁判の状況が主人公のモニターという立場から詳細に展開される。小説とは言え、よく取材して勉強していると思う。東京裁判史という感じである。バナナと陰口をたたかれた男はマッカーサー元帥の下級副官として栄達を目指す。
彼の家も出身は広島であり、離婚して母と妹は広島で原爆に遭う。妹は結婚が決まっていたが、原爆でケロイドが出来て破談になる。
この男は、復員した主人公の弟に闇市で横流しができるペニシリンなどを米軍から横流しするように手配する。弟は商才もあり、財をなしていく。警察に捕まるが、進駐軍のコネで釈放される。この時、日本に来ていた兄が身元を引き受けるが、フィリピン戦線で生じた兄弟のしこりはとれない。

主人公は昔、習っていた弓道を再びはじめ、精神の落ち着きを取り戻しながら、東京裁判のモニターを務めていく。広島で原爆を一時的に免れた二世の女性と惹かれあう。この女性は帝国ホテルで働く。
主人公の妻子も後に日本に来てワシントンハイツで暮らすが、心は通わない。

第4巻も東京裁判の話が詳しく続く。その間に原爆を免れた女性が白血病にかかっていることがわかり、大きな悲しみを受ける。東京裁判においても原爆のことは触れないで終わり、主人公は割り切れない思いを抱く。

東京裁判は結果として勝者が敗者を裁くかたちになり、主人公は理不尽さを覚える。こうした態度は米軍に不審がられ、忠誠を疑われる。愛する人の原爆白血病による死、家庭の不和、裁判への疑問などから心を病み、主人公は自裁する。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 2

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック