「山崎豊子 自作を語る(作品論) 山崎豊子 著

山崎豊子はセンセーショナルな話題を取り上げているように感じられるが、そうではなく、彼女が小説の題材に取り上げたことで世間が認識して、その結果、世間の話題になるということだったと思う。実に偉い作家である。

この本は、山崎豊子が自作の執筆に当たっての裏話とか、取材時に遭遇した逸話などを論じたものを編集した本である。この「作品論」のほかに、「人生編」というものも文庫から出されている。

ご自身でも自分の小説は取材が第一と書かれているが、頭が下がるご努力である。毎日新聞に入社し、学芸部に配属され、そこでの上司、学芸副部長の井上靖から、その才を見いだされ、執筆活動に入ったとある。

ここには「運命の人」、「沈まぬ太陽」、「花のれん」、「ぼんち」、「女の勲章」、「女系家族」、「白い巨塔」、「華麗なる一族」、「不毛地帯」、「二つの祖国」、「大地の子」などにおける取材時のご苦労を書いている。もっとも「女の勲章」だけはパリに取材には行かずに、パリの大きな立体地図を見ながら街角を書いたとある。いずれの小説においても多くの関係者から取材をされている。綿密な事実を取材し、それを小説に構成していくわけである。この中で、はじめに小説の骨格を作り、そこに取材で肉付けしていくようなことも書かれている。

取材が詳細だから、モデルがいると、どの作品においても思われるが、モデルそのものを書いているわけではない。事実を掘り下げて、作者なりの主人公を造り上げていると彼女は述べる。それが小説となり、結果として人間の真実が見えてくると書いている。

「不毛地帯」の裏話のところに、彼女の執筆の基本は取材4日、執筆3日の一週間と書いてある。

沖縄取材の話も、心に染みる。沖縄県民の太平洋戦争時の苦労は聞きしに勝る話である。敗残となった軍人が民間人をガマ(鍾乳洞)から追い出し、地元民が来るとスパイと決めつけて、殺すようなことも行っている。日本人は自分も含めて沖縄県民のご苦労がわかっていないと感じる。

外務省機密漏洩事件の資料探しにおける外務省官僚の不誠実さも書かれている。大蔵省銀行局の取材でも、官僚の個々は会って話をするといい人間もいるが、組織としてはどうにもやりきれないようなことを書いている。この通りなのだと思う。

御巣鷹山事故を起こした日本航空の内部の腐敗、政治権力との結託ぶりも、事実だったのだと思う。こんな会社を国民の税金で救ったのだ。

「不毛地帯」は白のシベリアの不毛地帯、赤の砂漠の不毛地帯を書いたそうだ。シベリア抑留の悲惨さも筆舌に尽くしがたい。それに砂漠の石油開発の苦労を多くの人からの取材で書いたとある。

「二つの祖国」に関して、日本と違って、アメリカは日系二世に日本語を学ばせ、それで軍事の秘密など解明していくことに触れている。日本は英語を敵の語学として退けたが、この時点で負けていたわけだ。これが極東軍事裁判の場面での描写にもつながっていくわけである。

「大地の子」の取材における胡耀邦主席のオープンな人柄、魅力的な人柄を尊敬を込めて書いておられる。中国人も文化大革命時の出来事を知らずに、この小説から知るということもあるようだ。逆に稲山氏の後を継いだ新日鉄の斎藤英四郎会長の不誠実な態度を明らかにしている。


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