「戦争と美術」 司修 著

太平洋戦争時の、俗に言う戦争画を描いた画家、描かなかった画家などをいくつかの視点で書いている。著者も画家のようだが、戦争画を描いた画家に対しては批判的な本である。左翼的な岩波の新書でもある。
私は、この著者の意見には賛成できない面が多い。大きな時代の動きの中である。周りも皆、戦争に協力している中である。戦争に迎合したと批判するなら、今の人気作家は現代の潮流に迎合しているということも批判されなくてはならない。芸術は絵そのものが、観る人にどのような印象、感銘を与えるかである。私が日本刀の愛好家だからであろうか。刀は広義に言えば戦い、戦争の為の道具である。だけど美しい。戦争賛美なんかは関係がない。

さて、この本の概略を紹介する。各章ごとに、章に応じた視点でまとまった内容であり、発表された時期がそれぞれに違うのであろう。

「無辜の罪」はユダヤ人だったシャガールが、自分の肉親が死の収容所に連れて行かれたことの苦悩を抱いて描いていたことが紹介されている。愛の画家シャガールとの定評があるが、その内面はと言う視点である。

「表現と苦悩」は、戦前に『生きている兵隊』が発禁処分になった石川達三のことを書いている。石川が起訴された時に、彼の弁護に立った作家はいなかったようだ。その後、石川は軍の圧力によって筆を曲げられるが、作家としての苦悩は感じられるとする。従軍作家の石川を紹介することで、従軍画家の行動に問題提起をしようとしている。

「芸術の罠」はヒットラーに信頼されて、記録映画を作った美貌のレニ・リーフェンシュタールのことを取り上げている。作品は素晴らしいが、戦後はずっと批判を受け続けていた。記録映画という独創的な仕事をしたにもかかわらず。

以上は、日本において戦争画を画いた画家を批判するために取り上げた序章のようなものだ。

「僕にとっての戦争画とは」は著者の生い立ちにからめて、当時、戦争画を描いた藤田嗣治、石井柏亭、田辺至、中村研一の様子、特に藤田の様子を書いている。フジタがヨーロッパから帰国すると、まずスパイ扱いをされたようだ。そして軍部のスタイルにあうように髪型も変える。ハルハ河畔戦闘の図は2枚描かれ、一枚は未公表だが、生々しい戦争の状態を画いていたようだ。戦争中は著者はまだ小学生だったが、その周囲にも密告するような者がいたことを書いている。

「生きている画家」は松本竣介が書いた文章で、軍部に対して抵抗した内容とされている。なお、画家は当時、役に立たないものを画いている不良、遊民のように思われており、それが戦争の遂行を鼓舞するような絵を描いて、お国に奉公できるということで戦争画に飛びついた画家もいた。

「芸術の魔力」は藤田嗣治の戦争画について書いている。藤田らのエリート画家、力のある画家が何らかの戦争画を画いたことを述べている。前述した画家以外に、向井潤吉、小磯良平、猪熊玄一郎、伊原宇三郎、宮本三郎、栗原信、寺内万次郎、南政善、田村孝之介、鈴木栄二郎、清水登之、田中佐一郎、中山巍、川端龍子、山口蓬春など錚々たる画家が描いている。

私は藤田の絵、中村研一の絵は近代美術館で観た。フジタは凄いと感じる。また向井潤吉の蘇州上空に飛行機の影が大きく描かれている「影」は東京都美術館で観た。戦後は古民家が多いが、この戦争画はいい絵である。清水登之の「突撃」もいい絵だと思う。清水は最愛の長男を戦死させている。

「美化された死」は藤田の作品「アッツ島玉砕の図」のように人気を博し、戦死することを美化することになったもののことを書いている。戦死を美化とは、絵の力ではなく、当時の教育のせいだと思うが。
一方で、井上長三郎の作品は撤去されることを画いている。井上の絵もいい絵である。ただ当時はフジタほどの大物でないから、簡単に撤去されたのであろうか。

「新人画会」は靉光、松本竣介、麻生三郎、井上長三郎、糸園和三郎、大野五郎、鶴岡政男、寺田政明などが参加したが、そのことについて書いている。著者はこの画家達が戦争に抵抗したことを書きたかったようだが、取材すると、参加した人は、大仰に戦争に反対したとは言っていない。変わり者が集まった程度で語っているのが印象的である。このように当時の無名の変わり者の画家が各自の画きたいものを画いたというのが実態であろう。

「画家の良心」は戦後にあった画家同士の責任のなすりあいの様子を書いている。それぞれの立場から、各画家が発表した文章を収録している。

「抵抗の画家批判」は洲之内徹が松本竣介について批判した内容を、著者が批判している内容だ。洲之内徹は戦争中に共産主義者から軍部協力者として中国で働いていたことを買いて、その屈折した心情を暴いている。著者は洲之内徹に対する反感で、この書全体をまとめたのではなかろうか。





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