「官僚亡国」 保阪正康 著

昭和史に詳しい保阪正康氏が、いくつかの雑誌に発表してきた軍部官僚制の弊害を論じた論をとりまとめた本である。ただ、それだけでなく、第2部として「皇太子と秋篠宮」として天皇論について言及した論もまとめている。

太平洋戦争を実際にはじめたのは大本営政府連絡会議、そして御前会議であり、この決定に関わったのは政府の首相、陸相、海相、外相、蔵相、企画院総裁など6人。それに大本営側から陸軍の参謀総長、参謀次長、そして海軍の軍令部総長、軍令部次長の4人。この10人はすべて官僚で、政治家もいない。重臣もいない。その結果として「戦争の見通しのなさ」「指導者の責任のがれ」という官僚制特有の弊害がでる。

保阪氏は、ここで官僚制のひどい実態として現代の問題点も指摘する。例えば年金制度の問題、社会保険庁の問題など最たるものと書く。社会保険庁は上が厚生省から出向のキャリア(2年で本庁に戻るから、その間だけ大過なく過ごせばいい)、その下が社保庁に採用された職員で「ミニ・サミット」として地方の社会保険事務所に対して権限を持つ。その下が地方採用。地方採用の職員の多くは、出世が限られているから自治労の下部組織に入り、権利優先で怠け放題。こういう官僚制の体質が失われた年金記録につながっていると書く。
今は改善されたと思っていたが、昨今の情報漏れ、パスワード設定の嘘の報告、変わっていないのかもしれない。
また現在、問題となっている新国立競技場の建設費高騰問題も同じだ。建設資材が高騰したとか、あのデザインが誘致の決め手になったからと言って変更しない。誰も責任を取ろうとしない。体質は変わらない。

今も昔も官僚にとっては天下り先の確保が大事となる。軍人も戦争が始まれば予備役ではなく、新たなポストが増える。師団が増えると師団長も必要。南方を占領すれば総督府が必要で、それも天下り先となる。こんな意識で絵に描いた餅の中に構想を書いていた軍人もいたことを指摘している。なるほどと思う。

官僚エリートの中では閨閥も生まれ、そして彼らは特権を持つ。そして、気にいらない人物を前線に送り込む。企業では現場重視に心がけないと衰退するのは自明のこと。軍は現場が左遷場所。これでは無理だ。陸大出のエリートにおける戦争での死亡率はたった3%とうそぶく陸大出身者がいたそうだ。同年代の兵士の死亡率は10~20%というわけだ。

軍官僚は失敗しても、その責任を認めない。自分たちの決めた方針、方向のみに邁進する。
東条英機などは国民が愚かで弱いから負けたという意識。今の官僚も国民はバカだと思っている。そして愚民に選ばれる政治家も愚かと思っている。これに対して自分たちは試験で選ばれた優秀な人間だと認識している。

陸軍の参謀本部は陸大の卒業成績が5番以内という恩賜組だけ。その下に情報部、ここには堀栄三氏のような優秀な人がいたが、その情報も参謀本部に都合が悪いと握りつぶされてしまう。その一つが瀬島隆三が台湾沖航空戦の実態を握りつぶしたことだ。これでルソン決戦を避けて、レイテ決戦に作戦が変更されて10万人が死亡という莫大な損害を出す。
瀬島隆三は他にも開戦前の外国電報の15時間差し止めを命じたことや、対ソ連との交渉(終戦工作だけでなく、シベリア抑留につながる密約、東京裁判でのソ連側証人として出廷した理由も含めて)などおかしなことがあったが、結局、しゃべらずに死んだ。

2.26事件は乱を起こした青年将校を刑死させて終わる。この後に第2の2.26事件と呼ばれる事態が起こる。それは、陸軍統制派が皇軍派の有能な軍人も含めて3000人も左遷する。そして、こういうことが起こらないようにと陸軍大臣の現役武官制を復活させて、内閣の生殺与奪の権を確立する。これが太平洋戦争につながる。この結果の方が悪影響が強い。

最後の陸相の阿南惟幾は陸軍の意を受けて最後まで徹底抗戦を主張したが、終戦の日に自決(遺書の日付は8月14日)した。私は、この人は本当に徹底抗戦を主張していたのではなく、陸軍の暴発を押さえる為に、まずは徹底抗戦を唱え、聖断が下ってからは恭順に軍部を持っていたのだと思っていた。
この本に、阿南が陸軍東京幼年学校の校長だった時に2.26事件を起こした将校を批判した訓令が収録されていて、そこに責任の取り方としての自決にふれられている(当時、正面から批判したのは阿南も含めて少数だった)。
阿南自身は徳島中学時代に乃木大将の前で剣道の試合に出て、声をかけられ、幼年学校の受験を進められた経験から乃木大将を尊敬していたことがわかり、保阪氏は、阿南なりに、乃木大将の殉死を見習ったと推測しているがなるほどと思う。

第2部は、今の時代の皇室論である。このテーマは取り上げにくいテーマであるが、保阪氏はいくつかの雑誌に論を展開しており、勇気があると思う。
保阪氏は、今の天皇が「民主制下の天皇」を目指しているの対して、皇太子殿下は「グローバリズム下での天皇」を目指しているのではないかと拝察し、それがまだ実現できていないとの思いで書かれている。秋篠宮と秩父宮などを比較した論など、なるほどと思う。


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