「勝ち上がりの条件 軍師・参謀の作法」 半藤一利+磯田道史 著

歴史に詳しい半藤一利氏と、歴史学者として最近はマスコミにも登場することが多い磯田道史氏の対談集である。軍師、参謀と呼ばれている歴史上の人物を取り上げ、どういう点が優れているかなどを話し合っている。本の企画は去年のNHK大河ドラマの「軍師官兵衛」に便乗したものだが、軍師の人物像だけでなく、その人物出現の背景の話もおもしろく、ともかく、お二人の博識・碩学ぶりに驚く。内容豊富な本の中から、一部だけを抜粋する。

中世までは、軍師は占いなどの知識が大事。皆、神仏を恐れていたから、戦も、神仏の加護を得ることが大事だった。
鎌倉期の承久の乱の時に、漢文の院宣が読める武士がおらず、大江弘元が対応したと言う。
だから寺で漢籍・漢文を学ぶことが大事。その一つの孫子の兵法は、戦いは、戦わずに勝をおさめることが大事というもので、この発想はヨーロッパではクラウゼビッツの戦争論まで無かった。

中世の軍制は「着到」と「感状」。地方の盟主の「軍勢催促状」を見て、郎党を連れて参陣することが「着到」。そして手柄を立てると盟主から「感状」と褒美。地縁、血縁、宗教縁が軍勢の単位。だから旗色が悪くなると、この単位で逃げる。

濃尾平野で中央集権が生まれる。兵士教育を積極的にできた。だから長い鑓、鉄砲も使いこなせるようになる。
足軽は旗足軽、槍足軽、弓足軽、鉄砲足軽の4つに分かれる。鉄砲は臆病ものが持つ武器として、最下層。この意識は江戸時代の終わりまで続く。
身分の高い武士は大将の側にいるもの。すなわち後ろにいる。幕末に近代兵制が行われ「前へ進め」の号令が出ても、前に出るのは身分が低いとの認識から出なかった。だから明治期も軍人には身分の高い武士はならずに、神官になったのが多い。

黒田官兵衛は情報を重視し、兵站の重要性もわかり、大局観もある人物。朝鮮出兵は反対だった。
小早川隆景も優れた人物。毛利家は中国山地に割拠する武士団の集まりで、織田家のような濃尾平野で中央集権を作れた家とは違うと認識していた。
この両人に限らず、小さい時に人質生活などを送り、苦労すると相手との力関係に敏感になり智力がつく。

軍師・参謀はナンバー2になるが、この位置は古来から危ない。黒田官兵衛も引退し如水となる。
徳川家康の参謀は本多正信、彼は自分の禄は求めなかった。(息子の本多正純は宇都宮城をもらい、後に配流)
家の単位でも徳川家に次ぐ第2の大藩の加賀前田家は、本多正信の次男本多政重を家老に迎え、内部情報を筒抜けにした。(本多政重は一時期、上杉の直江景勝は養子になっている。これも上杉家の対徳川対策だろう)

戦争が無くなり、リアリティが失われると、軍学が生まれる。甲州流、長沼流(会津藩)、越後流(紀州和歌山、岡山藩)、山鹿流などである。

徳川家も本多正信の次の松平信綱までは実戦経験のある参謀。彼は島原の乱において、諜報も駆使して鎮圧した。
新井白石になるとリアリズムに欠けてくる。

動乱期の幕末における勝海舟は奇跡的な人物。勝は日本は守りにくい国と認識し、対抗するには海軍と銃の近代化。そして海軍はオールジャパンで運用しなくてはと考え、海軍伝習所を作り、人材を育成。

維新時の薩摩の参謀伊地知正治も、伏兵がいるなどの独特の勘がすばらしい人物、長州の大村益次郎も天才。
山県有朋は戦いには弱いが計数に強い。また私服を肥やしたが、人物評価は誤らなかった。

その後は明治の陸軍の川上操六(陸軍の参謀本部をつくる、情報も重視…薩摩・長州は密貿易で情報を重視の土地柄)がでる。
海軍の秋山真之は、軍隊用語「攻勢」「先制」「奇襲」なども作り、情報の記号化も行い、戦場での情報伝達に意を用いた。
児玉源太郎は戦争=政治と言うクラウゼビッツの論を体現していて大局観が抜群。

参謀には体力も大事。レイテ海戦で謎の反転をして失敗した司令官栗田健男と参謀長小柳富次は、前日に乗船の愛宕が沈没、彼らは泳いで駆逐艦に助けられる。その駆逐艦がまた攻撃を受ける。そんなことで寝ていない。これで体力的にも精神的にまいっていた。

時代の空気に流されずに正鵠を射たことを言った人物は偉い。ジャーナリストの桐生悠々(昭和8年に空襲の惨状と敗北を予測)、初代京大学長の狩野亨吉(神がかりや曲学阿世の徒が国家を滅ぼすことになった」と開戦時に言う)、水野広徳(大正13年に日米開戦になれば日本は負けるという)、秋山真之(自分の語ることは時代遅れになると述べて講義)




ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック