「偏愛ムラタ美術館 発掘篇」 村田喜代子著

以前に「偏愛ムラタ美術館」を読んだが、その続編的な本である。作家の村田喜代子氏は美術の愛好家でもあり、彼女が気になった美術家の作品を取り上げて紹介している。前の本より、この本の方が面白い。

今回、取り上げられた作家は、アルフレッド・ウォレス、瀬戸照、甲斐大策、これは作家ではないがアルジェリアにあるタッシリ・ナジェールの岩絵(紀元前5000~2000年頃)、横山操、黒澤明(ご存じ映画監督で、その絵コンテ)、吉田初三郎、高橋由一、熊谷守一、水越松南、貝原浩、木下晋、松本竣介、エミール・ノルデ、片山健、それから樹を描く人として関根正二、萬鉄五郎、河野通勢、椿貞雄をまとめた章としている。

以上の中では、私自身、木下晋の絵は2枚所有している。鉛筆画で、写実を極めんと凝視して、対象物の本質、人間で言えば生きてきた歴史までを描くような作風である。村田氏は、木下の絵の中で合掌する手を描いた作品を取り上げて評している。

瀬戸照ははじめて知ったが、木下晋と同様に、対象物(それも石ころなど)を、これでもか、これでもかと描いている。ジャガイモの質感など恐ろしい。

アルジェリアの原始人の壁画も初めて知ったが、影絵のように浮かぶ射手の絵は凄い。水場に牛が群がっているところの線描なども印象的である。

横山操の「塔」は焼けた谷中天王寺の五重塔がモデルだったことを知る。これまで、凄い絵だな、日本画の抽象化だと思っていた。横山は五十三歳で逝去するが、村田氏は加山又造と意気投合した以降の横山の絵は心を奪われることがないと書いているが、確かに前半生の絵の方が力がある。

高橋由一の取り上げ方も村田氏独特で面白い。歌田眞介氏は高橋由一の絵は「緻密で美しいマティエール」「堅牢で優れた耐久性」と評しているようだが、その堅牢性の元になる乾きの遅い油絵の具が、由一の絵の「脂っぽい暗さ」にあると書いているのは「なるほど」と思う。

熊谷守一については、彼が死の場面をいくつかの絵で印象的に画いていることを取り上げている。このように「死」についての絵を取り上げる中で、熊谷の真価を観て、評価していくのがいいのかもしれない。「陽の死んだ日」の激しい油彩、「夜(水死人)」の暗い印象的な抽象化した油彩、「ヤキバノカエリ」の晩年の線を極端に少なくし、色は平面ごとにべたっと塗る簡素な絵と作風は移り変わる。このように作風は違うが、何となく熊谷がわかる気がする。

水越松南も初めて知る南画家だが、あの富岡鉄斎に私淑したようだ。鉄斎と違って、もっと洒脱というか剽軽にも見える絵を画く。南画は絵の精進と共に自己の精神の境地を澄明にしていこうとするとあるが、こういう精神が、歳を取っても、いい絵を画く理由なのかと考えさせられる。

松本竣介についてはブルーの美しさと、彼にある青年の精神を書いている。私はブルーも同感だが彩度の低い茶色も美しいと思う。竣介の絵には「空気感がない」、「風が流れていない」、「ひしひしとした閉塞感がある」と書き、これは時代(戦時下)によると思うと、村田氏は書いたあとに、やはり耳が聞こえなくなったところにいた感覚だったのではとも書いている。

エミール・ノルデははじめて知る水彩画家だが、美しい色だ。ナチに弾圧された時代には逼塞していた人のようだ。私は、歳を取ってから色彩の美しさに目覚めたところがあり、印象に残る。

この村田氏の本は、美術専門家の本ではわからないところまで気が付く、いい本である。ちなみに昔読んだ「偏愛ムラタ美術館」の方の私の感想は、以下の通りだが、つまらない。再読した方がいいかな。また村田喜代子の小説も読んでみようと思う。
http://mirakudokuraku.at.webry.info/201003/article_6.html


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