司馬遼太郎「壬生狂言の夜」「倉敷の若旦那」「アームストログ砲」「美濃浪人」「小室某覚書」「斬殺」

司馬遼太郎全集31所載の短編は、これで全部である。改めて司馬遼太郎の上手さを認識する。いずれも時代小説のジャンルになるが、時代の空気、その空気の中で生まれる主人公、そして時代にもてあそばれながら、人情、野心、欲望、思惑の中で、ストーリーを造っていく。
「壬生狂言の夜」は、新撰組隊士松原忠司と町の浪人の後家との心中事件を書いている。ひょんなきっかけで松原は浪人を殺す。浪人の後家と男と女として、惹かれあっていく様子を書く。新撰組土方歳三は松原にふくむところがあり、それを縦糸にして、そこから広がる新撰組間での噂などから、心中に到る経緯を、その後家の家の近所の岡っ引きの目から書いている。短編小説らしく、うまいと思う。

「倉敷の若旦那」は、倉敷の商家の若旦那が剣に興味を持ち、政治思想にかぶれるというか、一種の正義感から志士活動に入る。そして倉敷の奸商を襲う。その後、長州の奇兵隊に入隊する。そこにおいて、隊の空気に流されて、自分の故郷の倉敷を襲うに至る。動乱の時代、それに弄ばれるというか、それに乗っていく人物の運命を書いて、面白い。

「アームストログ砲」は肥前の鍋島閑叟の命を受けて、最新のアームストロング砲の製造に従事する主人公の物語である。当時の日本で、こういうのを作り上げるわけだから、その苦労は半端ではない。同僚との軋轢もあり、気が狂う。その後も佐賀藩は研究を続け、完成させる。試射も命がけである。これだけの努力で完成した砲は、上野の彰義隊の討伐につかわれただけで終わる。意義はあったというべきであろうか。

「美濃浪人」も動乱の時代の熱気というか、気分に踊らされた美濃の所郁太郎の話である。28歳で逝去するが、結局、歴史に残るのは井上聞多を手術で助けたということだけである。それもなかなかにドラマチックな経緯であり、面白い話である。

「小室某覚書」も動乱の時代の不思議な人物である。商人の出身で、京都の足利将軍の木像の首をさらした事件にかかわったのが志士活動のはじめである。その後、長州に行き、ひょんなことから阿波徳島に逼塞する。維新の世になり、徳島藩では勤王の人材がおらず、この人物を藩士として世に出す。外遊をし、征韓論で下野した人物に頼まれて欧米の知識を披露し、後には経済界で活躍する。動乱の時代の不思議でもある。

「斬殺」も長州藩の奇兵隊出身で、東北鎮撫の任につき、傍若無人の態度で反感を買って殺される世羅修蔵のことを書いている。自藩からも、もちろん敵からも、そして後世(司馬遼太郎の評価)においても評価されていない人物である。司馬遼太郎はこのような人物を生みだし、世に出す時代の不思議さを書いている。



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