「刃物の見方」 岩崎航介 著

昔に出版された本の復刻本である。この本の中身について質問されたので、私も読んでみた。岩崎氏は新潟三条の金物問屋の息子として生まれ、戦前に東大の文学部國史科を卒業し、刀剣の古書を読み解く力を習得し、その後、東大の工学部冶金科を卒業して、今度は科学的に日本刀を解明する知識を得た人である。

岩崎氏のいくつかの講演やエッセイなどがまとめられているが、晩年に三条の地元で講演した内容をまとめた「刃物の見分け方」が一番良いと思う。これは経営の本でもある。世界各国のセールスマンが科学的知識も駆使して製品を販売している。それに対して三条の人間は努力が足りないということを、具体的な例を出して述べている。これを聴いた人は反省したと思う。それが三条の刃物の復興につながったのだと思う。

「日本刀と私」では、日本刀の秘密を解明するために、研師の修業からはじめ、ついで戦前の刀工:山村綱広、延寿宣繁に習う。戦争中は別だが、戦前においても食えた鍛冶は月山貞勝、笠間繁継、堀井俊秀くらいだったと言う。広島福山の小林宗光の逸話(一生涯貧乏するとして作り続けた)なども紹介している。
刀鍛冶の秘伝というものは「卑しく惜しみて、伝えざるに非ず」という言葉を示して、一応の理解を示している。

岩崎氏は時代を経るごとに刀の質は悪くなるという考えを持っていて、一番良いのが平安時代となる。古刀は新刀に比べれば、良いと思うが、ここまで言っては身も蓋もない。岩崎氏自身も、結局は古名刀の復活は出来ず、家業のカミソリでドイツのゾーリンゲンの製品に一矢を報いただけなのである。もちろん、カミソリで世界一のものを作り上げた努力は大変なものである。

ただ秘伝を集め、全国から53種類の秘伝書を探し出して、内容を読んだという努力は凄い。鑑定書も3000種を読み、戦前に全国で160余名の刀匠から話を聴いたというのも凄い。時々、当時の刀匠の言葉が掲載されているが興味深い。
岩崎氏は、正宗の境地に到達したと言う鍛冶がいるが、それは晩年になって目が悪くなったから、そう思っただけではないかと書く。なかなか痛烈である。

「刀剣」という章では、上古からのの刀剣をできるだけ科学的に分析した結果も掲載している。製法、特に折返し鍛錬の方法、焼き刃土のこと、焼き入れこと、その湯加減など、氏の知り得た情報を書いている。
「玉鋼の利用にとりくんで」は原料である玉鋼のことを述べている。

家業のカミソリについて、返品されることがあり、その一因として研ぎの問題があり、それは砥石の問題でもあるとして名倉砥、本山砥の産地に出向いて調査した結果などもとりまとめられ、掲載されている。熱心な研究家であった人であり、頭が下がる。


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