「秀吉神話をくつがえす」 藤田達生 著

この本のタイトルは、秀吉のイメージの明るさ、庶民性などとは違った側面、すなわち権力欲が強く、非情な謀略でライバルを蹴落としていく秀吉を描くために付けられたようだ。著者の藤田達生氏も歴史学者であり、史料に基づいて記述しており、参考になり、また面白い視点を提供してくれている。

大きく3つの視点が取り上げられており、一つは秀吉の出自についてである。ここでは。石井進氏の研究などを引用して縁者である杉原家次(妻の母の弟)は連雀商人、浅野長勝(妻の叔父)は有徳人、三好吉房(姉婿)は網差、又右衛門(伯父)は焙烙商人であり、秀吉も商人的な非農業民出身の可能性が高いとし、それゆえに伝統的な武士道徳から自由だったことが、異常な出世スピードの要因と書いていくいる。こういう出自から独自の情報収集能力を身につけたと推測する(蜂須賀衆という川並衆とも親しい)。秀吉の近親者の尾張の商都津島との関係も小島廣次氏が指摘しているようだ。

秀吉は三十代前半には織田の有力武将に出世している。これは戦争の方法を信長が変えて、それに秀吉の出自や情報収集能力が適合していたと推測されている。
当時の戦国大名は、それぞれ万単位の軍勢を動員し、大会戦や攻城戦を行う。軍隊内の足軽以下の雑兵の割合が高く、兵站の確保に限界があって、雌雄を決するまでには至らない。長期にわたり、敵領国に侵入しての刈田や放火で、心理的圧力を加え、敵方の内応を画策するという戦いだった。また誰も天下などは望んでいなかった。
それに対して、信長は付城を設け、敵を包囲し、敵を徹底的に殲滅するという戦いになる。こうなると城造りの多能な職人集団を動員し、物資を確保する必要があり、秀吉の出自が生きるというわけだ。確かに付城である墨俣一夜城が秀吉出世の始まりだ。


次の視点は本能寺の変に絡んでだが、非常に興味深い。天正6年に荒木村重が謀反を起こすが、この頃の織田政権は脆弱なところがあった。天正8年には佐久間信盛の追放もあり、重臣層の統制は不十分であった。そして、この頃から重臣ではなく、信長の一門や近臣の登用がはじまる。重臣間での生き残り競争が必要という事態であった。

荒木の場合もそうだが、足利義昭は策動し、毛利を中心とする反信長網の構築を試みていた。
信長は既成の権威を打破した男とされているが、当初は伝統的な権威を大いに利用している。このように伝統的権威はそれなりに利用価値のあるものだった。
安土城の発掘などを通して、信長は征夷大将軍に任じられるのを望み、親王の安土行幸も検討し、ゆくゆくは安土遷都まで考えていたようだ。

四国では阿波・讃岐をめぐる長宗我部氏と三好氏の対立があり、これまでは明智光秀→重臣:斎藤利三→その親族:石谷氏→長宗我部家との婚姻関係ということでのルートで、長宗我部氏との連携が基本戦略だったが、そこに秀吉が次のように割り込む。甥の秀次を三好康永(岩倉三好家)に養子入りさせる。阿波三好家は反信長だった。この時は秀吉も長宗我部氏とも友好的だったが、岩倉三好家が阿波三好家を親信長派にし、ここから信長の四国戦略は、三男の織田信孝を大将に四国平定軍を派遣することを決定。

この結果、長宗我部元親は足利義昭を推戴して、反信長網に入り、重臣間の出世競争に敗れた明智光秀も天正10年正月には謀反を決意した。信長が征夷大将軍になると、今の征夷大将軍の足利義昭を推戴しようとしている光秀は困る。それで天正10年6月の謀反となる。光秀は事前に上杉の重臣須田満親に連絡をとっている史料を自分は本物だと信じている。

一方、秀吉はある程度、この動きを知っていたのではないか。秀吉の運の良さとされている「中国大返し」だが、まず、よほど確度の高い情報を入手することが不可欠である。もし信長が生きていたら、軍令違反で処罰されるし、情報はよほど確信が持てなければ、そのウラを取る必要があり、すぐに毛利との講和などできないはずである。

家康の必死の伊賀越えでは3日で36里を走破(一日平均12里=約48㎞)。秀吉は本能寺の変後わずか1日半後で確実な情報を入手していた。京都から備中まで約235㎞を考えると信じられない。

なお、秀吉の提案に毛利が乗ったのは、毛利が秀吉方の内応工作などで弱体化されていて、続けて戦えない状況であったことによる。

もう一つは、昨今、藤木久志が秀吉の「惣無事令」をもとに「豊臣平和令」とでも言える世の中を目指したとの意見について、真実は違うと言うことを実証している。これも興味深いが、長くなるので割愛する。


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