「東京美術骨董繁盛記」 奥本大三郎 著

これは著者が「中央公論」に連載した骨董店訪問記を集めてまとめた本である。東京の有名な古美術店に訪問して、そこの店主に話を聞いてまとめている。著者は昆虫オタクで、かつ硯などの骨董を愛好しているようだ。だからコレクター、古美術愛好家の気持ちもわかり、私から見ても、なかなか面白い。

この手の本は、読み終わると、業界の奥深さ、業界人のプロとしての凄さに打たれるものであるが、この本を読むと、目が利くことがもちろん大前提であるが、何となく骨董屋は美味しい商売だと思えてくる。明治からだと大地震や敗戦という大きな出来事があったが、一方で朝鮮、中国からどんどん買い付けられる幸運や、大名家の没落による名品の出回りがあった。いいものを仕入れられ、それを購買する成金がいつの時代にもいたのだ。
そして今、残っている古美術商は戦後のインフレと、経済成長によって恵まれてきたと感じる。

こう感じても実際は真剣勝負を生き抜いてきた人々だ。甘い商売のように見えるのは、著者の骨董への造詣の深さとか、骨董・古美術への愛情の発露による表現の綾なのかもしれない。

取り上げられている店は「三渓洞」「壺中居」「繭山龍泉堂」「甍堂」「飯田好日堂」「吉平美術店」「海老屋美術店」「池内美術」「春風洞画廊」「山中精華堂堂」「水戸忠交易」「澄心堂」「小西大閑堂」「欧亜美術」「平山堂」「ギャラリー無境」「はせべや」「小宮山書店」である。業種も中国陶磁器から硯、日本美術、近代陶芸、書物など幅広い。

「三渓洞」の三谷家は江戸時代では三井家と並ぶ両替商だったことを知る。資本の蓄積が違うわけだ。ここの話では東美研究所編『東京美術市場史』が紹介されているが、興味深い本である。
「壺中居」では小林秀雄の話も面白い。小林の著作『真贋』の中のエピソードは、現在、その著書を読んでおり、面白い。また広田松繁こと広田不狐斎の『歩いた道』も読んでみたい本である。
「山中精華堂」の項で紹介されているが、イギリスの店は、手紙で約束しておいた通りに見せてくれて、品物を渡してくれる。フランスは、その場で話が少し変わってくる。オランダは金次第でどうにでもなる。イタリアは自分の国が一番と思っていて、東洋の美術品などは関心がないなどの話もなるほどと思う。

この世界は偽物との戦いがつきものだが「本物には必ず、小さなものでも重厚感がある」とか、偽物を掴まされても避けずに「思い切って買うこと」などという骨董商の言葉が掲載されている。ただし勉強が肝心なことは言うまでもない。その為にはいいものが所載されている本を読むことも大切とも追記してある。

一級品は高くてもすぐに売れるものである。一方、二級品以下のものを売るのには骨が折れる。これもよくわかる。
「腹に入ったら買う」という人のことが記されていたが、これも良い言葉である。自分が得心したら人が何を言おうが買うということだ。

戦前の大コレクターの話も興味深い。朝鮮の焼き物の美を発見した浅川伯教、浅川巧。また硯では板東貫山という人が目利きのようだ。
川端康成の買い方(金には苦労したが、欲しいとなると何が何でも)。白隠を発掘したとも言える細川護立(この人は熊本藩主の家柄で刀剣も凄い)なども興味深い。
魯山人についても、色々なところで話題として出てくる。やはり美の傑物の一人であろう。
ルーシー・リーという陶器作者もおもしろいようだ。
「澄心堂」の北畠兄弟による硯の話も非常に面白い。


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