「陸奥爆沈」 吉村昭著

この小説は、はじめに、著者が柱島に行った時の感想からはじまる。次いで戦艦陸奥の爆沈の話にしだいに興味を持っていく経緯を書く。その後、陸奥の話に入っていく。はじめに陸奥建艦の経緯を書く。日本海軍の期待を担った新鋭艦であったのだ。その陸奥が爆沈した時の関係者の証言、近くの民の証言などを取材し、描いていく。それから、陸奥爆沈を必死になって隠す当局の動きに筆は進む。
それから爆沈の原因究明の動き、潜水して実地調査をする様子などを書いていく。その過程で、日本海軍には、内部の者の不始末や、軍隊生活上の不満などからの放火事件などで艦船が多く沈められていた事実を次々に明らかにしていく。日本海海戦の旗艦三笠も飲酒グループの不始末で一度沈み(死者251名)、その後、ふたたび、不祥事が起こることなどを知る。栄光ある日本海軍にとっては秘匿しておきたくなる事実の列挙である。三笠以外に、磐手(未遂)、松島(207名死亡)、日進(2名死亡)、筑波(死者90名)、河内(618名死亡)などが列挙されている。また日本だけでなく、イギリス、フランス、イタリア、アメリカなどでも生じている。
そして、陸奥爆沈も、本の中ではQという頭文字の兵隊の仕業であることを明らかにしていく。本文の構成と一緒にあらすじを紹介したが、この構成が非常に印象的な小説である。

なお、別の著者の書で、Qとは吉川という名字の兵隊を暗示するような文章を読んだことがある。
死者1121名。生き残った陸奥乗組員353名は、爆沈の真相を知ることなく、そして爆沈したことが漏れるのを防ぐために、前線に送られて死にいたらしめられる。結局、生存者は100名になる。
戦争という愚かしいことの一つの人間くさい裏面を、取り上げている。世界に冠たる大戦艦も、たった一人の不心得者で、いともあっけなく沈んでしまう。海軍で、この状況だ。栄光の陸軍でも同じようなことが多々あったに違いないと思う。後ろから鉄砲玉が飛んでくるなんて話も聞いたことがある。これも戦争、何とも言えない読後感にひたれる小説だ。

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この記事へのコメント

2007年11月02日 00:17
はじめまして、こんばんは。
吉村氏の『脱出』という作品集のなかに、この陸奥沈没を隠そうとする当局に疑いをかけられる島民の悲劇が描かれた作品があったように思います。
それにしても、乗組員まで、優先的に激戦地に送られていたとは・・。国の犠牲者はいつも名もない人たちなのですね。
サンピエトロ
2007年11月02日 09:39
そうですか。今度『脱出』を読んでみます。税金を払っている人間を赤紙一枚で徴用し、これは国民国家だから許せるとしても、連れていく先で、戦いでなく餓死させる。あるいはバシー海峡での輸送のように無為無策の輸送で米軍の餌食とされる。そして、上の方は責任をとらない。この軍官僚主義の体質は、今でも同じように引き継がれているのが怖いです。

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